書評

【書評】芥川龍之介の猿蟹合戦〜君たちも大抵蟹なんですよ〜

猿蟹合戦〜君たちも大抵蟹なんですよ〜

ついこの間まで当たり前だったものが、いつの間にか時代にそぐわなくなっている。
世の中にはそのような事は当たり前に起こります。

時代の変化につれ、人の価値観は大きく変わっていきました。
江戸時代から明治時代、明治から大正、さらには昭和から平成でも・・・。

その変化には技術の進化・新しい文化の醸成・それに伴う人々の意識の変化など、あらゆる部分が影響している事と思います。

自分が時代のニーズを積極的にキャッチアップしていかなければ、世の中から知らない間に取り残されているのかもしれません。振り返れば、全てが敵のことも・・。
ある意味、時代を追わないものには理不尽かつ不条理な事は起こりうるのかも知れませんね。

今日はそんな「ドキリ」とさせる小説「猿蟹合戦」の紹介です。

著者紹介と作品背景

芥川龍之介は大正時代に活躍した日本の小説家です。
「羅生門」「鼻」「芋粥」「藪の中」など、多くの優れた短編小説を生み出した「短編の名手」とも言われています。

作品の特徴として、「エゴイズム」「醜さ」といった人の「内面」を短編の中であざやかに描いているものが多いです。
いつの時代にも共通する深いテーマでありながら、それを簡潔に、わかりやすく纏めています。

芥川作品をざっくり分けると、
羅生門・芋粥のような歴史物を中心とした「初期」
芸術至上主義を打ち出して、長編にもチャレンジした「中期」
そして精神を病み始め、告白的自伝を描き、人生を振り返り始めた「後期」

この「猿蟹合戦」は、1923年に中央公論社「婦人公論」に掲載された小説です。
ちょうど中期から後期への変遷期に当たる時期に書かれました。

短編よりも短い小説のことを「掌編小説」と呼びますが、「猿蟹合戦」はまさに掌編小説と言えるでしょう。

芥川の生きた時代は、大正デモクラシーなど民本主義の動きも盛んに起こりますが、彼の死後は昭和恐慌を経て、少しずつ日本が軍国主義・全体主義へと移行して行きました。
もしかしたら、芥川もその目に時代の変化を見つめていたのかもしれません。

一般的な「さるかに合戦」のあらすじ

一般的な「さるかに合戦」は、蟹による復讐物語、また勧善懲悪の物語として知られています。
蟹がおにぎりを拾い歩いていると、猿が拾った柿の種と交換することを持ちかけます。
もちろん蟹は嫌がりますが、「いずれ柿の木ができてお得だから、この種の方が得になるよ」と猿は伝え、それならと交換します。

そして無事に柿の木は成長し、木には柿の実がいくつもできるようになりました。
しかし、蟹は木に登ることができません。
そこで、猿は「自分が登って取ってやる」と言います。

木に登ったは良いものの、猿は自分が柿の実を食べてばかり。
蟹が催促すると、熟していない青い硬い実を蟹に投げてきました。
蟹は当たったショックで甲羅が割れて子供が出てきますが、そこで死んでしまいます。

怒った子蟹たちは仇を討つために、同じく猿の意地悪に困っていた栗・臼・蜂・牛糞と協力して、計画を立てます。

そして猿の家に隠れて作戦を実行します。
熱々に焼けた栗が体当たりをし、水桶付近で蜂が差し、逃げようとすると牛糞に滑り、最後に屋根から落ちてきた臼に潰されて猿は死んでしまいます。

こうして見事に子蟹たちは仇を討つことに成功したのです。

芥川龍之介の猿蟹合戦 あらすじ

さて、芥川版では上記通常盤の後日談として話がスタートします。
登場するのは蟹・臼・蜂・卵です。

仇を取った彼らは無事生涯を送ったように思われるが、それは間違いです。
彼らは警官に捕縛され、主犯格の蟹は死刑に、臼・蜂・卵等共犯は無期徒刑の宣告を受けました。

蟹は「握り飯を交換した、しかし猿は蟹に青柿しか与えなかった。そればかりか傷害を加えるようにそれらを投げつけた。」と弁解しました。

しかし、一通の証書も取り交わしていないことや、交換条件に熟柿と明記していないこと、また猿の悪意に足る証拠が足りないことなどから、ことごとく裁判で蟹の証言は却下されてしまいます。
この結果に世論はもちろん、有識者や社会主義者・更に宗教家も当然の結果だと蟹を受け取り、蟹を非難しました。
唯一蟹のために気を吐いたのは酒豪兼詩人の某代議士のみという有様でした。

さて残された蟹の家族はどうなったのかというと、蟹の妻は売笑婦に、長男は株屋の番頭に、次男は小説家になりました。
愚鈍だった三男はただの蟹より外のものになれませんでした。

三男が横ばいに歩いていると、握り飯が一つ落ちていました。
蟹が握り飯を拾い上げると、高い柿の木の上で虱を取っていた猿が一匹・・・

そして小説はこのように終わります。

とにかく猿と戦ったが最後、蟹は必ず天下の為に殺されることだけは事実である。
語を天下の読者に寄す。君たちも大抵蟹なんですよ。

まとめ

いかがでしたか?
最後の一文でグッと引き込んでいく読後感の良さは、芥川作品の特徴でもあり、また考えされられる部分でもあります。

蟹や猿は何を表すのか、天下の為に殺されるとは一体何か?
そんなことを考えながら読んでいくのもとても面白いですね。

短いながら、時代背景や作者の生涯を振り返りつつ色々な考察ができる「猿蟹合戦」。
ぜひ読んでみてください。