書評

【書評】芥川龍之介の「トロッコ」を読む 先の見えない心細さを抱える

【書評】芥川龍之介の「トロッコ」を読む 先の見えない心細さを抱える

「先の見えないこと」への心細さはなかなか辛いものがありますよね。
終わりが見えるからこそ、頑張ろうと思いますし、気持ちも切れることなく取り組むことができるのではないでしょうか?
「負ければ終わり」の高校野球のように、いつかは必ず終わるということがわかっているからこそ、一瞬一瞬が尊く輝くのではないですか。

しかし、はっきり区切りがついているものだけが人生ではありません。
日々の生活は「ここまで行けば終わり」というものはなく、続いていくものです。
言うなれば、人生には勝利も敗北もなく、ひたすらに歩むしかありません。

先が見えない闇の中を、無我夢中で歩む。
ふと振り返った時、それが如何に辛いのかを実感することもあると思います。

今回はそんな先の見えない心細さを描いた小説「トロッコ」の紹介です。

トロッコはこんな人におすすめ
短いながらも、最後の一文でグッと深さを増すこの小説は

●芥川龍之介作品初心者
●手短に人生や社会を考えたい人
●先の見えない中でもがいている人
●考えさせられる作品を読みたい人
●純文学初心者

上記のような人にはとてもおすすめです。
芥川龍之介の良さである短いながらも「深い」という読後感を味わえますよ。

著者紹介  芥川龍之介

芥川龍之介は大正時代に活躍した日本の小説家です。
「羅生門」「鼻」「芋粥」「藪の中」など、多くの優れた短編小説を生み出した「短編の名手」とも言われています。

作品の特徴として、「エゴイズム」「醜さ」といった人の「内面」を短編の中であざやかに描いているものが多いです。
いつの時代にも共通する深いテーマでありながら、それを簡潔に、わかりやすく纏めています。
そんな読みやすい作品だからこそ、国語の教科書に載るのかもしれませんね。

さて、そんな芥川ですが彼は非常に繊細な人物でした。
作家として華々しくデビューしながらも、数々の出来事で精神を疲弊した彼は、少しずつ精神的に追い詰められていくのです。

結果、彼は睡眠薬を大量に服用し自殺します。
死ぬ前に残した「ぼんやりとした不安」という言葉はあまりにも有名です。

トロッコ最後の一文も、「ぼんやりとした不安」を感じさせるものとなっています。

作品のあらすじ

物語の主な登場人物は主人公の良平、そして鉄道工事をする土工たちです。
良平8歳の時、小田原〜熱海間の鉄道敷設工事が始まりました。

良平はその様子を毎日ように見学します。
理由は工事というより、現場にあるトロッコに興味を持ったためです。
そこでは土工たちがトロッコを使って土を運んでいました。

良平は思います「俺も土工になりたい」「乗れなくてもいい、せめてトロッコを押せたら」と。

あるとき友達と共に隙をみてトロッコを押し、乗ることに成功します。
その時の顔に当たる風の爽快さは鮮烈な印象を残しました。

それから10日ばかり経た後、例に漏れずトロッコを眺めていた良平は、若い2人の土工に声をかけます。
「おじさん、押してやろうか。」と。
良平の算段では、若い土工なら、作業の手伝いをしても怒られず、かつ好きなトロッコを押して、乗ることもできると考えたのです。

そうして見事成功。
良平は土工たちとトロッコを押し、そして乗ることもできました。
黄色い実のなった蜜柑畑をすぎ、竹藪を抜け、やがて海が感じられるところまで来て、良平は想像よりも遠くに来てしまったことを悟ります。

そこからさらに進んだところで、土工たちから「俺らはこの先に泊まるから、もう帰りな」と言われてしまいます。

今までこんな遠くに一人で来たことのなかった良平は、「帰れ」と言われたことに絶望します。
言いようのない不安感・薄暗くなっていく道・いくつも坂のある長い線路・・・
そんな中で、ひたすらに駆けて家を目指すのです。

どうにか家に着いた時、辺りはすっかり暗闇でした。
家の間口に着いた時、彼は安心感と、味わった心細さから解放されたことでわっと泣き出しました。

現在、良平は26の時に妻子と東京へ出て、雑誌校正の仕事をしています。
なぜか理由もなく、この時の思い出が蘇って来るのです。
日々の生活に疲れた彼の前には、今もあの時のような薄暗い藪や、坂のある道が細々と続いているのです・・・。

まとめ

「トロッコ」いかがでしたか?
受動的から能動的に動いていく良平の心情や、風景描写と心理状態の照応など、じっくり読んでみてもとても面白いですよ。

おさらいですが、

●芥川龍之介作品初心者
●手短に人生や社会を考えたい人
●先の見えない中でもがいている人
●考えさせられる作品を読みたい人
●純文学初心者

上記の人にはとてもお勧めできる作品です。

トロッコは、最後の一文の存在がとても大きいですね。
当時の自分の心境に、「今」の自分の生活を重ねることで、この小説はグッと深みを増しています。

薄暗くなる知らない土地を、ひとりぼっちで歩いていく。

もしかしたら、我々の人生も「言いようのない不安感」と「先の見えない心細さ」を常々抱えているのかもしれませんね。

人生というレールは果たしてどこまで進むのでしょうか。