書評

【書評】村上春樹の「村上朝日堂」を読む〜気軽に読める面白いエッセイ〜

【書評】村上春樹の「村上朝日堂」を読む〜気軽に読める面白いエッセイ〜

皆さんは「エッセイ」は好きですか?
日本語では随筆とも言われる文学の一形式で、主に著者の体験などから得た知識を元に感想や思索などをまとめたものです。

通常の文章よりも作者の思いやパーソナリティが如実に現れるエッセイ。

日本では随筆の機嫌は10世紀末、清少納言によって書かれた「枕草子」と言われています。
その後も「方丈記」や「徒然草」など優れた作品がたくさん生み出されました。

そんな中でも私がオススメするのは、現代の世界的名作家村上春樹氏のエッセイシリーズである「村上朝日堂」です。

村上朝日堂はこのような人にオススメ
村上朝日堂をオススメ出来る人は、以下のような人です。

●作者の人間性が知りたい人
●村上春樹の小説が苦手な人
●電車の中や隙間時間で気軽に読める本を求めている人
●「村上春樹を読んだ」と言いたい人

その形式ゆえに思いやパーソナリティがダイレクトに伝わるエッセイは、作者の人間性を知る上でとても参考になるものです。
そこで興味を持ってから、本格的に小説に入っていくのも良いでしょう。

読書が好きな人でも、意外に多いのは村上春樹が苦手な人。
確かに独創的な世界観や、ストレートな性描写に好みが分かれるのかもしれません。
しかしそんな人でもエッセイはオススメです。
気取った主人公や気障な台詞はなく、あるのは等身大の作者の思いだけです。

そして内容がライトなため、「よし、読むぞ!」といった気合や腰を据える必要がないのもエッセイの魅力です。
読みたいときに読みたい部分の話をちょっと読む。
ある意味で本と人間が「対等」な関係でいられるのは、エッセイの「形式の徳」と言えるかもしれません。

著者紹介 村上春樹

村上春樹は現代を代表する作家です。
兵庫県芦屋市に育ち、早稲田大学に進学します。
そこでは映画演劇科に進み、専ら映画館に映画を観に行くのが勉強だったそうです。
現在の奥さんとは学生結婚し、在学中にジャズ喫茶を国分寺に開業します。
本人曰く「そこそこ儲かっていた」とのことです。

お店を軌道に乗せていましたが、神宮球場へヤクルト・広島戦のデーゲームを観戦中に「小説家になろう」と決心したそうです。
当初はお店を経営する傍らに執筆活動をし、デビュー作「風の歌を聴け」を書き上げました。

そして2作目「1973年のピンボール」もブレイクし、1981年に専業作家となることを決意します。

その後バブル全盛期の1987年「ノルウェイの森」が大ベストセラーとなって、一躍多くの人に知られる存在になります。

その後の活躍は言わずもがなです。
「羊を巡る冒険」や「ダンス・ダンス・ダンス」「アンダーグラウンド」など多くの名作を生み出し、今なお文壇の第一線で世界的に活躍を続けています。

「村上朝日堂」は1984年に創刊されたエッセイです。
元々は「日刊アルバイトニュース」に連載されていたコラムでしたが、後に「週刊朝日」に連載られるようになります。
作中の挿入画を安西水丸が描き、その「ヘタウマ」な絵がコラムを華やかに(?)彩ります。

まだ「ノルウェイの森」での大ブレイク前の作品であり、どこかに若さ故の反権力感が滲み出ているのも本作の面白さと言えます。

内容

豆腐について(1)〜(4)

作中の挿入画を安西水丸が担当していますが、彼はどんな絵でも描いてくるため、困らせるためにシンプルなテーマを思いついたことが始まりです。

結果的に村上春樹が豆腐の美味しさについて語るコラムとなっています。
著者曰く、一番豆腐が美味しいのは「情事の後」だそうで、「とりあえず豆腐でも」というとりあえず感が豆腐のたまらない所なんだそうです。

引っ越しグラフィティー(1)〜(6)

「僕は引っ越しが好き」という作者の想いから、作者の引っ越し遍歴をコラムにしたものです。
「転校生」という言葉の響への猛烈な憧れから始まり、血気盛んな大学生の時の目白学生寮の話、あまり全てがうまく行かなかった練馬の下宿の話、「空飛ぶブラジャー」と若い時の日記の印象が強烈な三鷹の話と続いていきます。

そしてタイトルこそ変わりますが、次に「文京区仙石と猫のピーター」としてさらに引っ越しの様子は続きます・・・。

三十年に一度

作者が好きなプロ野球球団「ヤクルトスワローズ」に書かれたコラムです。
その当時は野村監督のID野球など影も形もない時代。
まさかその後90年代は常勝軍団としてプロ野球を席巻するとはつゆ知らず、弱小軍団であったスワローズをそれこそ「スルメを噛むように」愛してやまない作者。
スワローズ愛を感じるコラムになっています。

ダッフルコートについて

オシャレには疎い作者、そんな作者が愛しているアウターがダッフルコートなのだそう。
そこからファッションの流行の変遷について作者なりに分析し、世の中行き当たりばったりでなないことを学びます。
最近は軽くて暖かいダウンジャケットを買おうと浮気をしようと考えているとか・・・

などなど、上記はほんの一例です。
当たり前のことを鋭く斬るコラムから、一風変わったテーマ、果ては何が何だかわからないテーマまで幅広いコラムが収められています。

まとめ

村上春樹の人間性が「これでもか!」と感じられる「村上朝日堂」シリーズ。

●作者の人間性が知りたい人
●村上春樹の小説が苦手な人
●電車の中や隙間時間で気軽に読める本を求めている人
●「村上春樹を読んだ」と言いたい人

改めて上記に当てはまる人にはおすすめです。
決してハードル高くなく、一人の人間としての「村上春樹」が溢れている本です。

ただ、その中でも言葉遣いや感覚の鋭さはさすが作家と言わざるをえません。
そしてそれを支える安西水丸の絵も絶妙です。

この文体と絵のバランスは中毒性があります。
日常の癒しに「ライト」な村上作品、読んでみて下さい。