書評

荻原浩さんの「金魚姫」を読んでみた感想と見どころ!

荻原浩さんの「金魚姫」を読んでみた感想と見どころ!

「海の見える理髪店」で直木賞を受賞した荻原浩さんの作品の一つです。
この小説は恋人ににふられ、やりがいのない仕事に追われていた潤は夏祭りで一匹の琉金という種類の金魚をすくいました。
すくった琉金にリュウと名付けるのですが、後日、潤の部屋に赤い着物を着た女性が現れるのですが、彼女は自分のことを金魚だと言います。

そんな彼女との奇妙な生活が描かれており、夏にぴったりの小説で、ぜひ今の季節に読んでほしい作品です。
また、仕事を辛く感じていた潤がリュウと出会い、一緒に過ごすことで、少しずつ前向きになっていく姿にはジーンとさせられます。
ぜひ皆さん一度手に取ってみてください。

金魚に人生をかける

そうだ。琉金だ。こいつに決めた。僕は一匹の金魚に自分の明日を託す。

潤が金魚をすくうシーンです。この琉金をすくいリュウと名付けたことで物語の幕が上がります。
潤は仏壇を扱う会社の営業職で、亡くなった人の家族に営業をかけねばならず、仕事にやりがいを感じることができませんでした。

さらには勤めている会社はブラック企業で潤は過剰なノルマやパワハラに晒され、精神的に病んでしまい、鬱になってしまいます
「僕は一匹の金魚に自分の明日を託す」という言葉は大げさでもなんでもなく、こんな生活が嫌でこの金魚をすくえなかったら、死を選ぼうとまでしていました。

そんな状態の潤がすくった金魚=リュウと一緒に暮らすうちに、少しずつ明るくなり、仕事も少しずついい方向に動いていくストーリーに心がじんわり温まります。
私はちょっと仕事に疲れたときやうまくいかないときにこの本を読むと元気がでるのでおすすめですよ!

金魚の豆知識!

金魚の視力は人間に譬えれば、0.1程度である。近親者が眼鏡なしで風景を眺めていると考えれば解り易いであろう。
色覚については不明とする文献も少なくないが、色覚は確かにある、とここに断言しておこう。
金魚が赤虫を好むのは、模糊とした視界の先の鮮やかな色合いが、ことのほか食欲をそそるからに他ならない。

この本の魅力はまず金魚が女性になるという設定やその女性との生活模様のストーリーがおもしろいです。
しかし、この本の中には上記のような金魚のうんちくがところどころにはさまれています。私はこれがこの本のもう一つの魅力だと思いました。
今まで気にしたことのなかった金魚の生態について知ることができ、この文章のような金魚の視力について知っている人なんてほとんどいないですよね。
私も金魚を飼ったことはありますが、今まで知りませんでしたし、気にしたこともなかったです。

このうんちくは作中で潤が金魚を飼うにあたって、古本屋で金魚の飼育本を探していたときに見つけた「金魚傳」という本に書かれています。
金魚の歴史から飼うときの水についての話なども書かれている金魚の専門書で、もし実際にあれば少し読んでみたいなと思いました。

リュウが金魚になった理由

「何故魚なぞに身をやつしておるのか、知りたいか」
「いえ……いや、そのぉ……」知りたくない。もう何も聞きたくない。
「どうしてもか」
~中略~
「私も知りたい」

リュウが金魚から人に変わったシーンで、ここで初めて潤はリュウが金魚であることを知ります。
当然のことですが、潤はかなり取り乱しています(笑)
リュウがなぜ金魚になったのかと知りたいかと潤に尋ねるのですが、リュウ自身も自分がなぜ金魚になったのかはわからないのでした。
リュウは人を探していることだけは覚えており、リュウの記憶を取り戻し、誰を探しているのか調べるために、潤は仕事が休みの日を利用して、リュウといろいろな場所に行くことになります。

そこで、多くの人と出会い少しずつ物語が進行していくのでした。
リュウは記憶を失っていますが、私たち読者の視点ではリュウの過去に何があったのか、リュウがなぜ金魚になったのか、そしてリュウは誰を探しているのかわかっています。
といいますのも、この小説では潤とリュウの生活が描かれる合間にリュウの過去についても描かれているのです。
そのため、二人が求めている記憶や探している人を知ったとき、どうなってしまうのか、どのような選択をするのかと終始ハラハラさせらながら楽しむことができました。

営業先にて…

「もっとガツガツしなよ。若いんだから。俺のこと怒らせたっていいんだよ。人生は一回きりだ。ほんとうに短い。あっという間だよ。そのお茶みたいに『濃~い味』で行かないと」

潤が営業に行ったおじいさんのところでかけられた言葉です。
ネタバレになってしまうため、詳しくは語れないのですがリュウと出会ってから、潤は不思議なことに巻き込まれるようになります。
そのあることをきっかけにこのおじいさんのところを訪れるのですが、そのときの潤の姿勢を見てこの言葉をかけられました。

個人的にいい言葉だなと思い、この本の中で特に印象に残っている場面です。
『濃~い味』など実在するお茶をオマージュしたような商品がところどころ出てきて、そういったものを見つけるのもおもしろいかもしれません。

潤の心情

生きろ。寿命が尽きるまでは、しっかり生きろ。しっかり生きるために、僕は変わらなくては。

小説の冒頭とは別人のように潤の心が立ち直っています。
最初は仕事が原因で鬱状態になっていた潤がここまで前向きになることができたと思うと、ある種の達成感と潤をもっともっと応援したくなりました。
潤が頑張る姿を見ていると自分も勇気づけられ、頑張ってみようかと思えるようなシーンです。

物語も終盤に差し掛かり、いったいどのような結末を迎えるのかとワクワクするのと同時に、この物語が終わってしまうと少し寂しいという気持ちも感じながら、最後まで一気に読んでしまいました。

まとめ

金魚が女性になるという設定もめずらしいですが、リュウの失われた記憶の内容が先に読者には明らかにされているというストーリーの進行も新鮮でおもしろかったです。
潤とリュウの生活はハラハラさせられ楽しめますし、金魚に関するうんちくも興味深かったですよ。

また、物語の舞台が夏ですので、今この季節にぴったりの小説です。
この本を読めば、あなたもきっと夏祭りに行きたくなるはずです。
荻原浩さんの「金魚姫」ぜひ皆さん一度読んでみてはいかがでしょうか。