書評

『マザーズ』を読んでみた感想!“母親とは?”に興味のある方にオススメの本!

マザーズを読んでみた感想!“母親とは?”に興味のある方にオススメの本!

自分自身が母親という立場の人にとってはもちろんのこと、いつか母親になるかもしれない人、母親という立場について興味がある人、自分が父親で母親の目線が気になる人などにとっては、興味深く読んでいただける作品だと思います。

私自身は母親ではありませんが、小さな子どもを持つ母親の内面について興味があって読み始めましたが、途中このまま読み進めていいのか不安になるような暗さや育児に対する苦悩が描かれていて最後は涙が止まらなくなる体験をしました。
“母親”や“育児”について興味がある方には必読です。

①3人の母親の互いを見る視点が怖い

私は涼子という病的な母親を見て興奮していた。
自分がそういう気持ち悪い女であるという事も含めて、私は女を嫌悪し憎み蔑んでいる。そして何故か、その女のおぞましい女性性に惹きつけられる。

上に挙げたのは一例ですが、このマザーズという作品は3人の若い女性たちが保育所で出会って物語が始まります。
ユカ・涼子・五月の3人の人生が、交互に語られていくので、1つの出来事や人物に対して互いにどう思い合っているのかが分かり、それがスパイスになっているのが面白いです。

引用した部分は、高校時代に同級生だったユカが涼子に対して送っている視線です。
ユカは作家で3歳の娘がおり、夫とは週末婚の関係であり、精神安定のためドラッグを常用しています。
涼子は主婦で9か月の息子がおり、夫はあまり育児に協力的ではなく頼れる人がおらず、育児疲れで虐待をはじめてしまいます。

高校時代の二人の関係性はドラッグを通したある“事件”で、「涼子側からユカを去った」と事実でプツッと切れています。
その二人が20代中頃になって、社会的には母親”という立場になってママ友という形でまた関係を始めさせていくのです。
その中で、涼子が保育所に預けた息子を、自宅で延々とライブ動画で見続けているというシーンがあります。

ユカは、高校時代の涼子がどういう人かを知っている人物です。
そのユカが小説家という視点で、ある種職業病のように、母親として再会した涼子が子育てに病的なまでの行動をとっているところを興奮して観察している様が、「マザーズ」にはいくつか書かれており、その自分自身も含めた母親の抱える闇に対する客観的視点が、この小説の1つの見どころだと思います。

作者の金原ひとみさんが作家という職業だからでしょうか。
ユカの部分はドラッグも服用しており、非常に暗くて辛い部分もありますが、一歩ひいた視点で母親のグロテスクな部分を捉えているのが、誰しもが少なからず持つ可能性のある、他人への興味だと感じて、興味深く読み進めてしまいました。

②社会問題として伝わるメッセージ性がある

私は何故一弥に対してこういう本能的な愛情や優しさを持てないのだろう。
母親だからこうしなきゃいけない、あれしなきゃいけない、という動機でした一弥に関わる事が出来ないのだろう。

涼子は母親という社会的役割に押しつぶされそうになっている人です。
9か月の息子を、特に仕事などの理由があるわけではないが保育所に預けることに罪悪感を覚えています。
我が子が可愛いながらも自分1人で責任を負っていかなければいけない重圧や孤独感で、子どもを離れたい、自分の気ままに過ごしたい、でもそんなことは出来ず逃れられない育児の辛さ、苦しみがマザーズの作品には散りばめられています。
これだけ読むと非常にツライ話に聞こえますよね……。

でも、引用箇所にあるようにこの物語はそういった母親のプレッシャーや孤独感が何故起こるのか、本当に個人を断罪すれば済むことなのか?
といった様々な社会問題をテーマとして扱っていて、虐待や育児放棄、夫たちの無関心など、子育て環境に苦しむ母親たちの告発として考えさせられる小説になっていて素晴らしい作品です。

③母性の切実さに胸が震えるシーン

亮と心が通わなくなってから私に起こった事、私のした事、不倫も、不倫相手の子どもの妊娠も、離婚の決意も、流産も、それをきっかけに弥生への愛情が薄れた事も、弥生の死も、弥生の死は私の意志によって引き起こされたものだったかもしれないという可能性も、全て私のした事見た事聞いた事感じた事を亮に話して、私はそれら全てを現実にする。

これは不倫相手の子どもを妊娠し流産をし、夫との子どもである娘、弥生ちゃんを事故で亡くした五月の部分の引用です。
五月はモデルとして一見セレブで華やかな生活を送っているのですが、レストラン経営の夫とはもう1年近くまともな会話がなく、そのことへの不安から穴を埋めるかのように不倫をしています。
マザーズの物語の主人公3人の中では1番愛情をたっぷりかけた育児を行い、立派に“母親”を演じられている人物として描かれています。

その五月の不倫からの妊娠を経て、愛娘である弥生に対しての気持ちの変化、本当は夫である亮といろんな事を話しながら生活を進めていきたかったという心情の吐露などなど人生が劇的に変わっていくのですが……。
そんなに劇的なことが起こっていたら果たして受け止められるのでしょうか?
彼女にとっては、起こっていることを現実として受け止めていくためには、亮に話すことでしか解決できなかったことが引用部分で分かります。

「言葉にしてやっと自分の人生に降りてくる」という感覚がとても共感ができ、育児・家事・仕事と何役も仮面をつけなければいけない母親という役割をこなしていくためには、言葉にして救われるという部分が多くあるのではないかなぁと思います。

五月と亮の家庭は、不幸にも弥生ちゃんを失ってから2人の関係の歩み寄りが始まりました。
もっと前にできたら良かったのに……と心から思います。
子どもを失うという話はツライですが、教訓になるような箇所だと思い、また主人公の切実さに胸震える部分です。

まとめ

正直、「マザーズ」を読む前までは、子どもを育てることがこんなにも愛情と憎しみに引き裂かれるような感情にあふれたものであると思ってもいませんでした。
もちろん、全然そんなことないという母親の方もいらっしゃるかもしれませんが、育児をされたことのある方なら、少なからず共感されるのではないでしょうか。
多くの育児中の皆様へ敬意と理解を持ちたいと私自身は感じることができた読み応えのある作品です。