書評

私たちは正しく選択できるのか!? 『選択しないという選択』

私たちは正しく選択できるのか!? 『選択しないという選択』

『選択しないとう選択』は行動経済学の問題についての本です。
そのため、まずは行動経済学について簡単に解説します。

旧来の経済学は、個人が自分の利益を最大化するように合理的に行動すれば、社会利益も最大化すると考えられていました。
それどころか、例えば価格は「需要と供給」で自動的に適切に決まるとされていました。
ただし公害物質の放出などは放置すると社会利益を損なうあるため、規制や課税などの措置が必要です。

しかし「ゲーム理論」という経済学上の発見により、場合によっては、合理的な個人が利益を最大化しようとしても全体の利益が最大化しない場合があることが分かりました。
これについて有名なのは「囚人のジレンマ」というモデルです。

さらに「そもそも人間は合理的ではない」ことも分かってきました。
これは頭が悪いという意味ではなく、もともと、そういう性質を人間が持っているということです。
例えば利益よりも損失を重大に受け止める「損失回避の心理」などがあります。
こういった経済学と心理学をべ―スにした「不合理な人間」についての学問が行動経済学です。

行動経済学は、人間が合理的でないことは示しましたが、では非合理的な人間社会を良くするにはどうすればいいのか?については、あまり良いアイデアはありません。
『選択しない選択』はそのアイデアの1つについての本です。

●「選択しない選択」とは

選択できるということは多くの場合、途方もない利益をもたらす一種の恩恵ではあるが、同時に多大な負担を強いる一種の災いにもなりうる。

上記の引用で、一番イメージしやすいのは投資などでしょう。
しかしここでは、もっと身近な例を挙げます。
例えば、ある山に観光に行った際に、ロープウェイがあったとします。
あなたは、自分で歩いて登るか、ロープウェイで登るかを選択することができます。
「選択の自由」はとても大切なものですが、初めてその山に観光に来たあなたは、きっと頭を悩ませるでしょう。

自分で登ると無料で運動にもなります。
ロープウェイはお金がかかりますが早く登ることができます。
悩むことは「負担」ですし「悩んだ結果、ロープウェイに乗ったら、思ったより短かった」となると「災い」です。
もちろんロープウェイに乗って良かった、という場合があります。
しかし、どちらにせよ悩む必要はあります。
徒歩が良いか、ロープウェイが良いかは、その観光地の人が一番知っています。

そこで、パンフレットや各種案内に「××からロープウェイで5分」と書いてあればどうでしょうか。
少なくとも初めて来た観光客は、頭を悩ませる必要はありません。
ただし「徒歩コースはこちら」といった案内も少しは必要でしょう。
しかしロープウェイで登るのが普通であるように設定しておく。
これを本書では「デフォルト・ルール」と呼んでいます。

デフォルト・ルールは当事者がなにもしない場合(よくあることだ)の特定の結果を規定する

「デフォルト・ルール」設定のメリットは、頭を悩ませる必要がなく済むだけではありません。
ある企業では、プリンターのデフォルト設定を片面印刷から両面印刷に変えただけで紙の消費が44%削減できたとしています。

あるいは、海外では臓器提供について何も意思表示しない場合(デフォルト)では同意しているとみなされる国があります。
拒否する場合はその意思表示が必要です。

一方、日本は健康保険証の裏面に何も書いていなければ(デフォルト)臓器提供に同意していることにはなりません。
同意するには意思表示が必要です。
具体例でいえば、デフォルトが臓器提供に同意になっているフランス、オーストリア、ポーランド、ポルトガルなどでは臓器提供に同意している人は99%を超えます。
一方、デフォルトでは臓器提供に同意にならないドイツ、イギリス、デンマークなどは20%未満です。
ちなみに日本は15%未満です。

では、日本やドイツは臓器移植に抵抗があり、フランスやオーストリアは臓器提供したい人が多いのかというと、そうではありません。
実際、日本では、家族が臓器移植に同意している場合、「それを尊重する」という人は85%を超えます。
よって、臓器移植を嫌っているのではなく、デフォルト・ルールの問題と考えられています。

●「選択」が必要な場合もある。

GPSナビを使うとき、あなたは事実上、代わりにルートを選んでもらっている。

カーナビは、目的地を設定すると最適と思われるルートを検索し、案内を開始します。
これは大変に便利な機能です。
しかし一方で運転手から「目的地へのルートを決定することの学習機会や能力」を奪っています。

カーナビがついた自動車しか運転したことがない世代は、果たしてカーナビなしで初めて行く目的地へのルートを決めることができるのでしょうか?
あるいは、カーナビが指示していない裏道をショートカットで利用したり、逆にカーナビが示している道は細くて危ないから広い道路を通ろう、という選択もありえます。

あるいは進路選択で、進路担当の教員が提案する(=デフォルトの)進学先に進めば安心かというと、そうとは限りません。
あなたが希望する進学先があるならそこへ行くべきですし、まだ決まっていないなら時間をかけて探したほうが良いでしょう。

「選択しない選択」は比較的、重要でないことを「デフォルト・ルール」に任せることで、重要な選択に、より力を注ぐことを提案しています。