書評

人生は何で決まるのか?『遺伝か、能力か、環境か、努力か、運なのか』

人生は何で決まるのか?『遺伝か、能力か、環境か、努力か、運なのか』

私たちの命の価値や、憲法のもとの人権は平等ですが、その一方で、個人により様々な違いがあることは明らかです。
この本では、国籍や民族といった違いではなく、国内等の格差が生まれる要因として、遺伝、能力、環境、努力、運を取り上げています。

それぞれの章は簡単な概説ですが、それぞれ根拠となる参考文献が多数掲載されていますので、それらでより理解を深めることができます。

●遺伝

ヒトの遺伝情報は、30億の塩基から成るので、DNAが2重螺旋なら、ヒトの遺伝子は合計60憶の文字で書かれていることになる。
とはいえ、遺伝情報はDNAのほんの2パーセントしか有用でないとされる。

遺伝は出産前から決定している要因で、本人の努力ではどうにもできない代表的なものです。
とはいえ、遺伝で全てが決まるわけではありません。
遺伝を重視しすぎると「優生思想」という危険な思想に陥りかねません。
「優生思想」はナチス・ドイツなどに代表される考え方で「優れた民族」「劣った民族」などとしてしまうことです。

この背景には以下の通り進化と遺伝の研究があります。
ダーウィン(1809~1982年)とメンデル(1822~1884年)は同時代に生き、それぞれ生物の進化・遺伝について研究をしました。
ダーウィンの進化論は、ともすれば「優れた生物のみが生き残る」と解釈され、メンデルの遺伝研究による「優性」「劣性」という言葉もまた「優れた遺伝子と劣った遺伝子がある」という誤解を生みやすいものでした(メンデルのいう「優性」「劣性」とは「遺伝情報が競合する場合にどちらが発現しやすいか」というもので、生物として優れている性質かどうかとは無関係です)。

遺伝については、もちろん人生に影響はあるものの、ある程度は環境や努力で乗り越えられるものと考えるほうが望ましいでしょう。
また、知性よりも性格のほうが遺伝によるところが大きいことが分かっているそうです。

●能力

ここでは能力という言葉を掲げたが、これを頭の良さなどで代表される知的能力に限定せず、むしろ人間全体の様々な個性を意味していると理解してほしい。

能力といっても頭の良さから足の速さ、忍耐力まで多様です。
知性については遺伝率80%という研究結果があるそうです。
これは、賢い親から同様に賢い子供が生まれる可能性が80%という意味です。
これだけ聞くと、ほとんど遺伝で決まってしまうような気もします。

しかし、未就学時のIQと就学後のIQでは差があることが分かっています。
IQは平均を100とした数値なので、誰かが上がれば誰かが下がっています。

例えば未就学時のIQが95で、就学後に105になったとすれば、遺伝要因のみでは平均以下でしたが、勉強により平均以上になったということですし、IQが下がった別の誰かは、遺伝要因で恵まれていても勉強しなかったなどの理由で下がったと考えることもできます。
ただし著者は、IQは生まれながらの知性を示すべき指標なので、未就学時点の数値が本来のIQ(知性)であり、就学後の能力は、努力や環境などで説明すべきとしています。

●環境

低学力で苦しんでいる生徒、それは低所得の家庭に育ったり、塾に行けない家庭に育った生徒の多い学校において顕著なことなので、特別にでもいいから、そのような学校や学級において少人数学級制度にして教育すれば、それらの生徒の学力は高くなると主張しておこう。

遺伝と能力の要因を排除し、環境のみに違いで比較する方法として有力なのが、一卵性双生児による研究です。
遺伝子も生まれながらの能力も、同一と見なせるためです。
たとえば体重については、出産時よりも小学生~高校生のほうが、双子間で近いという研究結果があります。

一卵性双生児だからといって、全く同じものを食べ、全く同じ運動をしているわけではないにも関わらず、どんどん体重が近くなっていくということは、体重については環境よりも遺伝によるところが大きいと推測できます。

別の研究では、環境・学習などの影響が強いものにはチェス、外国語、美術、記憶などがあり、遺伝の影響が大きいものには音楽、数学、スポーツ、執筆などがあるそうです。
また、幼児教育の重要性についても解説されています。
とりわけ学力など数値化できる「認知能力」よりも、意欲、自制心といった数値化できない「非認知能力」に良い影響が出ると考えられています。
学校での学習環境においては、少人数クラスのほうが、学力向上が認められることが分かっています。

●努力

いかに高い知能・能力を持ち、いかに良好な環境にいようとも、本人がなにもしないのなら成果はなく、どれだけ努力するかが肝心である。

本書では、努力について大きく「学力」「スポーツ」「社会人の実績と評価」に分けて書かれています。
まず「学力」ですが、質の良い教育をしている高校ほど勉強時間が長く、質の低い教育をしている高校ほど短いため、格差が広がっていく要因になることなどが論じられています。

一方、学校、学力や家庭環境に関わらずアンケートの「出された宿題をきちんとやる」に対して94%の生徒がイエスと答えているので、宿題については義務感が強く、学力を向上させる良い方法ではないかとしています。

次に「スポーツ」ですが、これは遺伝+能力+環境+努力の全てが揃わないと、超一流にはなれないというのが著者の意見です。
ただし、背が低くても活躍できるバスケットボール選手のように、自分の特性をきちんと把握し、適切な方向性の努力をすることはプラスになるとしています。
「社会人の実績と評価」については、成果主義や、年功序列、昇進といったことが言及されています。

●運

才能や能力の欠如を無視すれば、運は巡ってこない。

本書では「運」について、理論よりは心構えについて書かれています。
それは、運だけに頼ることはやめるべきで、できるだけの努力をすることが運を呼ぶ条件となる場合があり、運悪く失敗してもくじけず、きちんと分析することなどです。

一方で、場合によっては失敗について「運のせい」にすることで心理的負担が少なく済む場合もあるとしています。
もう1つ「運」で決まることは「容貌」です。
容貌による格差を論じることはタブー視されてきた面がありますが、アメリカ等では研究が進んでおり、所得への影響などが紹介されています。
ただし容貌については主観的な面があり、例えば「顔」で好みを判断する人もいれば「体型」で判断する人もいるでしょう。

容貌より性格などで判断する人もいます。自分を気に入ってくれる人に巡り合うかは「運」だけではなく、いろいろな人に接する努力も必要に思われます。