書評

保護者必読!『友だち地獄』をよんでみた!

保護者必読!『友だち地獄』をよんでみた!

●息苦しい「優しい関係」

対立の回避を最優先する若者たちの人間関係を、本書では「優しい関係」と呼んでおきたい。

本書によれば、ある中学生がこのような川柳を書いたとしています。
「教室は 例えていえば 地雷原」
学校生活をしたことのある方なら意味することは分かると思いますが、今は携帯電話などのコミュニケーションツールの発展により、その地雷原は「帰宅後の自宅」にまで広がっています。
本書は2006年刊行でスマートフォン出現以前、「スクールカースト」という言葉が普及するより前の本ですが、「学校生活の社会学」の本として色あせない内容となっています。

●いじめと「優しい関係」

しかし、ただ傍観しているだけの無関心層も、いじめに対して無関係な存在ではありりえない。

企業社会などでは「パワハラ」といった言葉が広まり、経営者や管理職もそれを認識し防止策などが撃たれています。
一方、学校社会では「いじめ」の存在は以前から明らかでありながら、有効な手立てが打てているとは言い難い状況です。

それどころか、2019年は神戸市のある学校の教員同士の「いじめ」が問題になりました。そして、その内容は社会常識からは考えられないようなものでした。
学校という場所が、閉鎖的で外部から見えにくい状況が改めて認識されました。
「いじめ」は単なるクラスメイトといった遠い関係よりも、友達など近い関係にある場合のほうが発生しやすいとされています。

「いじめ」の裏には、衝突を避けたいという「優しい関係」を維持したい心理があります。また研究では「いじめる側」と「いじめられる側」が、しばしば入れ替わることが指摘されています。
また「いじめに関与しない生徒」が、結果的に「いじめ」の一部を成し、かつ「いじめ」を見えにくくしていることも分かっています。
場合によっては警察が調べても「いじめの首謀者」は見つからず「いじめられていた事実」だけしか切り取ることができないこともあると言い見ます。

●社会への反抗ではなくなった非行

多くの専門家が指摘するように、現実には少年犯罪が増加しているわけでもなければ、凶悪化しているわけでもない。

かつての非行は大人や社会への反発という面が大きかったと著者はいいます。
尾崎豊の『十五の夜』のように「盗んだバイクで走りだす」わけでもなければ「校舎の裏で煙草をふかす」わけでもありません。

それどころか、現代のある高校生は「煙草を吸うなら学校で吸わなきゃいいのに」と言ったそうです。
つまり現在は「外側への反抗」ではなく、「内側への配慮」や「優しい関係」のマネジメントが、いじめを生み出していると指摘しています。

●「引きこもり」の問題

「自分の地獄」とは、自分と言う存在そのものを地獄の源泉と捉える表現である。

本書では、2004年に引きこもり状態にあった19歳の少年が両親を殺害した事件がとりあげられています。
著者は「引きこもり状態であったことが殺害の直接的断言を求めます。原因ではない」と分析します。
むしろ「引きこもることすら許されない状況」が事件に繋がったのではないか、というのが著者の意見です。

この少年はWEB上に日記を残しており「自分の地獄」という言葉が見られたそうです。
つまり、社会など外部への反感や恐怖、不満などではなく、自分の価値を肯定することができていなかったことが原因の1つではないかとされています。
同年に起こった別の引きこもり状態の人物による両親殺害事件では「自分が殺される前に親を殺そうと思った」と供述したそうです。

しかし、なぜ親が自分を殺すと思ったのでしょうか?
ここにも「自分の地獄」に似た心理状態が伺えます。
社会学者の見田宋介は「まなざしの地獄」という言葉を使いましたが、これを「私を見ないでくれ」という意味だとすれば「自分の地獄」は「私を見てほしい」ということではないか、というのが著者の意見です。

そして、そういった心理が発生する要因として、何らかのハプニングにより「優しい関係」づくりにおける失敗があり、そこから態勢を立て直すことができなかった(見てもらえなくなった)のではないかとしています。

●繋がりつつも孤独な子どもたち

だから彼らは、その不安定さを少しでも解消し、不確かで脆弱な自己の基盤を補強するために、身近な人々からの絶えざる承認を必要とするようになる。

国連児童基金による調査によると「孤独を感じる」と回答した15歳は先進国トップの30%だったそうです。
2位はアイスランドの約10%で、他国と大きくかけ離れていることが分かります。
当時はTwitterやLINEはありませんでしたがSNSの先駆けであるmixiは既に普及しており、インターネットで繋がることが容易であったことに変わりはありません。

著者はこれについて、人間関係が希薄なのではなく、むしろ人間関係に依存しすぎ、敏感になっているためではないか、としています。

●「フロリダ」化する友だち地獄

もっともくつろげるはずの時間が、もっとも不安な時間となっているのである。

「フロリダ」という言葉をご存知でしょうか。
アメリカの州のことではありません。
これは2015年には見られる言葉で、「お風呂に入るのでメール・チャット等から離脱する」、つまり「風呂りだ(つ)」の略です。
実は本書が刊行された2006年時点で既に、1日で最も不安な時間として「入浴時間」があがっています。
入浴中にメールなどが来てすぐに返信できなかった場合「優しい関係」が壊れてしまうからです。

こういったことは、学校外部からは見えません。
また家族でしか見えない部分、家族にも見えない部分があります。
大人は、子どもが直面していることに対して「自分の世代とは違うんだ」という理解がまずは必要に思えます。