書評

大学生活で「やらなくていいこと」満載!朝井リョウ『ときをかけるゆとり』

大学生活で「やらなくていいこと」満載!朝井リョウ『ときをかけるゆとり』

『ときをかけるゆとり』(文藝春秋)は「ゆとり世代」とも揶揄(やゆ)される世代の作家、朝井リョウ氏の「おふざけエッセイ」です。
朝井リョウ氏の代表作にはデビュー作『桐島、部活やめるってよ』(集英社)や『何者』(新潮社)などがあります。いずれも映画化してヒット作になりました。

文春文庫『ときをかけるゆとり』は、ハードカバー版の『学生時代にやらなくてもいい20のこと』に、エッセイ3編を追加収録して改題したものですので、重複購入に注意しましょう。
また、ニヤニヤしてしまうので電車内で読むのはおススメしません。

●著者(自己)紹介から、いきなりオカシイ

(前略)お腹が弱い。
2010年『チア男子!!』でスポーツ小説ならではの大人数の書き分けに失敗。
(中略)直木賞を受賞し、一瞬で調子に乗る。
(中略)春服と秋服が全く同じ。物持ちがいい。バカ舌。

これは表紙をめくったところに書いてある著者略歴です。
こういった細かいところまで「おふざけ」が入っています。
それでは本文を見てみましょう。

●エッセイ1.便意に司(つかさど)られる

私はお腹が弱い。文字にするとなんとも情けない一行目だが、この事実は私を語る上で大変重要な項目だ。最重要といっていい。

「司る」とは支配する、管理するという意味です。
つまり朝井氏は便意に支配されているわけですが、そのような自己告白を初エッセイの第1回で行うのは朝井氏くらいでしょう。
便意を「私の腹を稲妻が貫いた」「青い稲妻である」と表現するあたり、さすが直木賞作家です。

他にもトイレを借りる際に「私は走った。風を切り、一点を見つめ、メロスのように走った。民家の前におっじさんがいる。彼が私のセリヌンティウスだ」と偉大な作家、太宰治へのリスペクトも忘れていません。

●エッセイ5.モデル(ケース)をする

友人の、「カットモデルを探しているんだけど、どう?」という一言にガバッと飛びついた。

…と思ったら、長谷川さん(仮名)の美容師試験前日のカットの練習台だと判明するも、やさしい朝井氏はカットしてもらうことになります。
閉店後、店長を含め複数人に囲まれながらカットされる緊張感。
そしてカット後にチェックが入ります。

しかし…
「ちゃんとバランス考えて、カットした?この子、顔のフォルムが長めでしょ」
と、なぜか馬面(うまづら)を指摘される朝井氏。
「はい。考慮してカットしました」
と、追い打ちをかける長谷川さん(仮名)。
朝井氏はなんとか耐えるも、さらに店長は、
「この子さ、後頭部に欠損があるじゃんか」
と、朝井氏本人も知らなかった後頭部ハゲが判明。
なお長谷川さんは無事に試験に合格したとのこと。

●エッセイ7.黒タイツおじさんと遭遇する

ふと顔を上げると、おじさんが完全にこちらを見ていていた。

これが、麻布十番のマクドナルドで宮部みゆき著『火車』を読んでいた朝井氏が、黒タイツおじさんと出会った瞬間です。
黒タイツ以外はきちんとした服装。
しかし、ただ目が合っただけなのに「こんにちは」と挨拶して近くに座るおじさん。

「君はいい目をしているね」と褒められ、ほんのり喜ぶ朝井氏。
いきなりマクドナルドの紙ナプキンに「ENJOY」と書き、読むように指示するおじさん。「エンジョイ」と正直に答える朝井氏。
「違う!インジョイ!エンジョイっていうのは日本人の発音でしょ!」と咆哮(ほうこう)するおじさん。周りからの視線。

その後も会話は続き、バイトの時間になったのでようやく逃げだせる朝井氏。
そのとき黒タイツおじさんは、別れ際に名刺を出しました。
そこに書かれていた驚きの肩書きとは!?
答えは本書をお読みください。

●エッセイ11.眼科医と衝突する

腹黒いくまのプーさんみたいなあの眼科医との戦いをここに記しておこうと思う。

大学に入学し、初診で健康保険証を忘れ、受付の冷たい対応をなんとか乗り越えた朝井氏。眼科医から
「君、目がすごく汚れているね…コンタクトをつけたまま寝たりしていない?」
と質問され、あると答えると、
「君は愚かだね」

といきなりdisられます。
目の濁りから性格まで否定された気分になり落ち込む朝井氏。
保険証を忘れたことも指摘され「今日は有り金ぜんぶ置いて行って」と冗談をまっすぐな瞳で言う眼科医。
しかしこれは、眼科医との戦いの始まりに過ぎませんでした。続きは本書で。

●エッセイ13.スマートはフォンに振り回される。

朝井、スマートフォンデビューするってよ、である。

周りがスマートフォンを使う中、アナログ人間のお朝井氏が使い続けていたガラケーがとうとう故障します。
インターネットにつないだらすぐに電池が切れる自分の携帯電話が、修理不可能な時代遅れ製品だったことを知った朝井氏は、ついにスマートフォンへの機種変更を決意します。

高校生のときに購入した機種だったため名義が母親になっており、母親の「委任状」を印籠のように見せながら機種変更に挑む朝井氏。
サッパリ意味の分からない説明を受けつつも、なんとか白い箱に入ったスマートフォンを手に入れます。

その後、委任状をくれた母親に電話をしようとする朝井氏ですが、新品のスマートフォンの箱を開ける気になれず、公衆電話から母親に電話します。
しかし、そのとき朝井氏は、「会いたくて会いたくて震える西野カナ」以上の震えを経験することになります。
詳しくは本書で。

この本では、その他、全23編のエッセイを楽しむことができます。