書評

押井守監督でアニメ映画化した作品!『スカイ・クロラ』

押井守監督でアニメ映画化した作品!『スカイ・クロラ』

森博嗣『スカイ・クロラ』は戦闘機パイロットが主人公の物語です。
しかし、主人公のカンナミ・ユーヒチは人間ではありません。
詳しくは伏せますが、「キルドレ」と呼ばれる「戦争のためのパイロット」です。
この物語は資本主義における「ビジネスとしての戦争」を描いています。
キルドレはそのための道具です。これはそういう世界の物語です。

●殺すために生まれるキルドレ

僕は戦闘機のパイロット。
飛行機に乗るのが日常、人を殺すのが仕事。
二人の人間を殺した手でボウリングもすれば、ハンバーガーも食べる。

主人公のカンナミは、辞令により本作の舞台となる基地へ配属されます。
そこで指揮官である草薙水素(くさなぎすいと)と出会い、戦闘機パイロットとしてすぐに活躍することになります。

この作品の特徴として、語り手である主人公のカンナミの淡々とした表現があります。
それが、戦闘機による空中戦においてスピード感のある表現につながっています。

●スピーディでクールな戦闘シーン

あと四秒で相手は撃つ。
一、二、三。
同時にラダーもいっぱいに切った。
スナップ・ロール・
目の前に一瞬相手が来る。
右手が短く打った。

『スカイ・クロラ』の英語タイトルは『The Sky Crawlers』です。
「クロラ」は「クロールする人々」という意味で、水泳のクロールと同じです。
上記の引用部分は、短文での改行を繰り返すことで、戦闘機で空をクロールして戦うスピード感を表現していると言えるでしょう。

なお、『スカイ・クロラ』は全6作からなるシリーズ作品で、第2作『ナ・バ・テア(Non But Air)』、第3作『ダウン・ツ・ヘヴン(Down to Heaven)』、第4作『フラッタ・リンツ・ライフ(Flutter into Life)』など、英語タイトルの発音を、カタカナ表記した日本語タイトルとなっています。

下手に丁寧に「ホワット・タイム・イズ・イット・ナウ?」と言うよりも「掘ったイモ、いじくるな」と言ったほうがネイティブには「What time is it now?」にちゃんと聞こえる、というのと同様のタイトル付けです。

●陰鬱な地上シーン

淡々と生きている僕たちには、それがよくわかる。
僕はまだ子供で、
どきどき、右手が人を殺す。
その代わり、
誰かの右手が、僕を殺してくれるだろう。
それまでの間、
なんとか退屈しないように、
僕は生き続けるんだ。

スピーディで息をつく暇もないような空中戦闘シーンとは大きく異なり、地上シーンは比較的暗いムードが漂っています。
これは空で生きるカンナミと、地上で生きるカンナミの心理描写を文体で表現していると思われます。
唯一、地上で楽しそうなのは、飛行機の整備場のシーンです。
このコントラストもこの作品の魅力の1つです。

●アニメ映画版『スカイ・クロラ』

『スカイ・クロラ』は2008年にアニメ映画化されました。
監督は『GHOST IN THE CHELL/攻殻機動隊』(1995年)の押井守監督です。
同じく攻殻機動隊シリーズの『イノセンス』(2004年)以来、4年振りの長編アニメ監督作品となりました。

カンナミの上司にあたる女性が草薙水素(くさなぎすいと)であることから明らかなように、『スカイ・クロラ』は、草薙素子(くさなぎもとこ)を主人公とする『攻殻機動隊』を意識されてつくられており、実際に押井監督でアニメ映画化することが決まった際には原作者の森博嗣氏も驚いたようです。

アニメ映画『スカイ・クロラ』は、『攻殻機動隊』『黒子のバスケ』『進撃の巨人』などを手掛けたプロダクションI.G.により制作され、空中での3DのCG表現と、地上での2Dのアニメ表現が明確に分かれているのが特徴です。
ヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品されました。

●『スカイ・クロラ』シリーズの時系列と謎

実は、『スカイ・クロラ』はシリーズの刊行第1作ですが、物語の時系列としてはシリーズのうち最終巻となっています(刊行6冊目の短編集『スカイ・イクリプス』を除く)。
つまり、以下のように「刊行順」と「物語の時系列」が異なるのです。

・刊行第2作『ナ・バ・テア』…第1巻
・刊行第3作『ダウン・ツ・ヘヴン』…第2巻
・刊行第4作『フラッタ・リンツ・ライフ』…第3巻
・刊行第5作『クレイドゥ・ザ・スカイ』…第4巻
・刊行第1作『スカイ・クロラ』…第5巻
(刊行第6作『スカイ・イクリプス』…短編集)

これには、どのような意味があるのでしょうか。
実は、『ナ・バ・テア』から始まる主人公は、シリーズの物語を経るに従いだんだんと曖昧になっていき、第4巻『クレイドゥ・ザ・スカイ』では主人公は「僕」とだけしか表記されず明かされません。

そこから最終巻『スカイ・クロラ』へと物語が進みますが、シリーズを通しての謎が多く、「僕」は誰なのか、『スカイ・クロラ』のカンナミは本当にカンナミなのか、上司の草薙は本当に草薙なのか、といった議論がネット上などで盛んに行われました。

なお、アニメ映画版は『スカイ・クロラ』のみで完結しており、登場人物の関係をミステリー的には扱っていません。

●SF&ミリタリー&ロマンス&ミステリー作品としてオススメ

きっと、
彼女は生き返る。
僕だって生き返る。
繰り返し、僕たちは生きることになるだろう。
そして、また…、
戦おう。
人間のように。

『スカイ・クロラ』はこの1冊では「キルドレ」などを中心としたSF作品として、また「ビジネスとしての戦争」や「戦闘機の細かな描写」が描かれるミリタリー作品として、さらにカンナミと草薙の間に芽生えるロマンスの作品として読むことができます。

また、紹介したようにシリーズ全てを通して読むと、最終巻から刊行スタートという奇抜なスタイルと、主人公をはじめとする登場人物の混乱と謎が深まるミステリー作品として読むこともできます。

やや好き嫌いが分かれる作品かもしれませんが興味がある方はぜひ読んでみてください。