書評

人生に少しのゆとりと笑いを加えたい人におススメ『教養としての落語』を読んでの感想

人生に少しのゆとりと笑いを加えたい人におススメ『教養としての落語』を読んでの感想

日本では古くから芸能が多くの国民の間で楽しまれてきました。
その代表ともいえるのが「落語」でしょう。
今回紹介すのは、立川談慶著『教養としての落語』です。

著者の立川談慶氏は、最近テレビでも有名な立川志らく師匠を兄弟子に持つ、立川流真打の一人です。
慶応大学を卒業し企業に就職をしたという経歴を持ち、本著のキーワードとなっている「ビジネス」については自らの経験が影響しているところもあるでしょう。
ちなみに慶応大学卒業初の真打の落語家としても有名です。

さて、みなさんは落語と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。
やはり最も多いのは日曜日の「笑点」に代表される落語家さんたちのことでしょう。
即興で行われる大喜利の数々は、明日からの仕事を控える憂鬱な気分を和らげるものとして今なお多くの人に親しまれています。

しかし、落語家の本業と言えばやはり、「落語」を演じることになるです。
落語の寄席に行ったことがある方ならわかると思いますが、多くの人の前で、たった一人で笑いを作り出す姿は見ているだけで感動を覚えます。
その話術は政治やビジネスの世界にも通じるものがあり、話しの上手さや人を引き付ける話し方は学ぶことが多いように思います。

戦後初代の総理大臣である吉田茂は落語を愛した人としても有名で、宴席の場にも落語家を招いて講演会を行ったなどの逸話が残っています。
さらに、政治の世界も人前で話すことが大切であり、落語の話や枕を学ぶ人が今なお多くいます。

このように、落語は一般の方から政治経済と多岐にわたる分野で愛され続けています。
しかし、その一通りを述べているものも少なく、本著『教養としての落語』は落語家という世界から話のコンセプト、日本の伝統芸能を分かりやすくまとめた一冊となっています。
そのため、明日から使える教養として多くの人に読んでもらいたいと思います。

①良かった点「噺の構造と落語家の出世」

落語の良さは同じ話を様々な話し手がそれぞれの話し方や少し違う内容を入れることによって、受け継いでいくという伝統芸能の要素があるところでしょう。
例えば、同じ日本伝統でいえば焼き物の世界も似ています。
焼き物は使っている土や焼き方はほとんど確立されていますが、それでも作り手によって全く違う物に見えます。

これは落語も同じであり、噺家によって全く違うものになるのです。
この伝統芸能の要素が落語の一つの魅力でしょう。

落語の噺は構成が決まっています。
「枕」「本題」「オチ」が構成となっており、この順に落語家は噺をします。
しかし、人によっては枕を話さないという人もいたり、枕を話過ぎて本題が短すぎたりと、人によって様々です。

枕の内容の面白さでその落語家の力量が分かるということも言われます。
これはビジネスマンのスピーチも同じでしょう。
本題に入る前の前振り(枕の部分)の面白さで、その人の話しが面白いかどうかが分かります。
落語の世界でも、枕の名人といわれる人も多くいるようです。

次に登場人物についてです。
一般的な古典落語は分かっているだけで、300ほどあり、それの一つずつ覚えていくのは大変です。
そこである程度登場人物を理解して入ればより楽しむことができるでしょう。
「与太郎」「一八」「権助」「花魁」「若旦那」「ご隠居」「熊五郎・八五郎」が主な登場人物です。
それぞれのキャラクターについては本で説明を読んでもらいたいと思います。
ただし、「与太郎」は落語の世界ではもっとも有名で、誰にでも愛されるキャラクターです。

今でいうジャンプの主人公ですかね。
失敗を繰り返しながらもひょうひょうと時世を生きる姿は誰もが応援したくなるでしょう。そのため与太郎が出てくる噺は「与太郎噺」といわれます。

最後に落語の世界の昇進についてです。
落語の講演会に行くと次から次へと落語さんが登場するので何が何だか分からないなんてこともありますが、この出世階級が分かれば落語家さんの立場も分かります。
「前座見習い」「前座」「二ツ目」「真打ち」というのが落語家の出世階級の順番で、「前座」に昇進すると高座に上がり噺を披露するようになります。

前座見習いから真打ちまではだいたい10~15年かかりますが、真打になると弟子を持つことができるようになります。
笑点メンバーはもちろん皆さん真打です。

②良かった点「人間って、本来ダメなものだし、ダメでいいんだよ」

日本の伝統芸能は大きく分けて4つのジャンルに分けることができます。
演劇(歌舞伎、能楽、文楽、組踊)、舞踊(舞楽、日本舞踊)、音楽(雅楽、尺八、薩摩琵琶、長唄)、演芸(落語、講談、浪曲)です。

それぞれの特徴や歴史については本の中でも詳しく述べられているので、個々では紹介しませんが、最近神田松之丞さん活躍もあって「講談」が人気を集めているようですので、少しここで紹介をしたいと思います。

本の中でも書かれていることですが、講談は武士の武勇伝としての要素が強く、江戸時代には武士の訓練(今でいう学校の勉強)の一つとして行われていたという歴史があります。そのため、宮本武蔵の活躍などは講談の世界でも非常に人気があります。

ちなみに出版社の「講談社」は有名ですが、この会社の名前の由来は講談の話しをまとめていたというものです。では、講談とは一言で表すと何かといえば、

「精神一到何事か成らざらん(集中して行えば、何事も成就できないことはない)」という精神で人間を啓蒙し、鼓舞してくれる演芸。一方の落語は、「人間って、本来ダメなものだし、ダメでいいんだよ」と説いてくれるもの。人間の業(人の欲求や「不合理」と分かっていても行ってしまう行為)を肯定したり、心を癒したり、楽しませてくれたりする演芸。

講談と落語の違いを知るというだけで勉強になりますが、その歴史から深く根差した文化を学び直すきっかけになるでしょう。

③良かった点落語家の有名な亭号・屋号

落語家にはそれぞれの亭号と屋号があります。
本著の著者でもある立川談慶氏は立川談志師匠に弟子入りしたため「立川」が頭につきます。
しかしこれは苗字ではなく、亭号・屋号といわれるものです。

亭号や屋号が多く覚えられないという人もいるかもしれませんが、有名どころの亭号・屋号は「立川」「林家」「桂」「三遊亭」「古今亭」「春風亭」などであり、これは笑点のメンバーも含まれています。
先ずはこの6つの亭号・屋号を覚えるだけでもいいかもしれません。

ちなみに、落語界で初めて人間国宝となったのは「柳家小さん(五代目)」師匠です。
この方は立川談志師匠の師匠でもあった方で有名ですが、その人生そのものが落語のようだったといわれるぐらい破天荒な人だったそうです。
芸の世界では女と酒はつきものだといわれることがありますが、その生き方は芸そのものだったということでしょう。

このように落語家には亭号・屋号というように名前で一門が分かるようになっていますが、誰が誰の師匠というのは少しややこしいようです。
そのため、この6つの有名な亭号・屋号を覚えてもらい、そのあと面白い噺家を見つければ詳しく調べてみるのが良いのかもしれません。

まとめ

本著では落語の歴史から、他の伝統芸能まで広範に網羅された話が詰め込まれており、興味のあるところを読むだけでも非常に勉強になると思います。
紹介できなかった師匠・立川談志の裏話から、なぜ落語が日本の大衆に受け入れられたのかまで詳細に述べられているので、落語に興味がある方には繰り返し読んで頂きたいと思います。

なにより本著は落語の「人間はダメでいい」という神髄を多くの人に広めようとするものだったと思います。
現代のようなストレス社会ではあまりに気を張って頑張りすぎてしまうことがあります。
しかし、ダメな部分があるのが人間だと思え、自らのダメな部分を笑いに変えられることが社会で生き抜く上で一番大切なのかもしれません。

ビジネスエリートといわれる人は完璧に何でもこなせるような人だと思われがちですが活躍している多くの人は、お笑いの要素があり、自分にもダメな部分があると分かっているような人だと思います。
完璧であることよりも、自らの失敗すらも笑いに変えれる人になりたい、そんなことを思わせてくれる一冊でした。

ビジネスエリートがなぜ身につけている『教養としての落語』立川談慶、サンマート出版、2020年