書評

AIロボット時代を考えている人におすすめ。「ドラえもんを本気でつくる」を読んでみての感想

AIロボット時代を考えている人におすすめ。「ドラえもんを本気でつくる」を読んでみての感想

誰もが小さい時に思い描いたことがあるものといえば、「ドラえもん」のいる世界ではないでしょうか。
ドラえもんが物語の中で誕生するのは2112年です。
これから100年の間に、一家に一台のドラえもんがいるという時代が来るかもしれません。

その先駆けともいえるのが著者の大澤正彦さんです。
大澤さんは慶応大学大学院に在籍中の学生です。
小さい頃からドラえもんを作ることを夢見ており高校は工業高校に進学し、慶応大学理工学部でAIやロボットについて研究を進め現在に至っています。
ドラえもんという存在を意識してから現在まで大澤さんは「ドラえもん」を誕生させるために研究のほとんどの時間を費やしてきました。

大澤さんの夢「いつかドラえもんを作る」というものは最初は周りから笑われて、今でもそんなこと無理だといわれることがあるそうです。
しかし、この著書を読んで最後にはみんなが思うはずです。
「そう遠くない未来にドラえもんがいる」と。

①良かった点「ドラえもんをつくるには、まずはドラえもんの定義から」

ドラえもんを定義してくださいと言われたら皆さんはどんなことを言うでしょうか。
「タケコプターで空を飛べる」「どこでもドアが使える」「ネズミ型ロボットで耳をかじられたやつ」。
恐らくその定義は多種多様であり、これといった決まった定義はないはずです。
これは「機能集合要件」という言葉で、様々な機能の有無を明確にすることによってある物を定義していくことです。

例えば、「ペットボトル」を定義してくださいといわれたら、「プラスチックでできている」「飲み物を入れるもの」「キャップがついている」という機能を順々に定義していくことでそのものを定義することになります。

では「ドラえもん」を定義してくださいといわれて、みんなが持っているような共通のイメージは果たしてあるでしょうか。
それが大澤さんの出発点になります。
つまり、みんなが共有できる共通イメージがないのであれば「機能的集合要件」にこだわらず「社会承認による定義」に切り替えればいいと考えるのです。
これはどういうことかというと、みんなが承認したらそれは定義されるということです。

例えば先ほどの「ペットボトル」の定義でいえば、皆さんの前にペットボトルを置きます。
そして、「これは何ですか?」と聞きます。
恐らく多くの人は「ペットボトル」と答えるはずです。これこそが、「社会承認による定義」です。
つまりみんなが認めたのだからそれは「ペットボトル」になるという考えです。

こうなるとドラえもんも色んな機能を付け加える必要がなくなり、みんながみとめた「どらえもん」をつくることでおおはばなじかんとこすとのしゅくしょうおこなうことができます。
これが大澤さんの裏技です。

②良かった点「HAI」

HAIについて知っているという人はあまり多くないでしょう。
一方で、AI(人工知能)について知っているという人は多くいるのではないでしょうか。AI(人工知能)は人間のような考え方をできるロボットというようにイメージされ、究極的な目標は自然言語での意思の疎通とAI自らの学習です。
この分野の研究は多額のお金がつぎ込まれ世界でも日進月歩の進化が進んでいます。

しかし、HAIについてはあまり知られていません。
この技術は、「ヒューマン・エージェント・インタラクション」の頭文字を取った言葉で、人とロボット両方の関係から課題を解決するというのが専門です。
専門的な分野なので非常に難しく感じるかもしれませんが、著書の中で大澤さんが提示している例を見ればすごくわかりやすいです。

例えば、ごみを拾うロボットを開発するとしましょう。
先ずAIを搭載したロボットを作るとすると、AIに学習をさせ「ごみ」を認識させます。
さらにロボットの本体部分には自動でごみを拾えるような装備を付け加える必要があり工学分野でも相当の時間とコストがかかります。

そこで大澤さんが注目したのが「ごみを拾う」という目的です。
つまりAI搭載型ロボットの目的はロごみを拾うということであり、それ以上でもそれ以下でもありません。
そうであるならば、人がごみを拾いたくなるロボットを作れば良いと考えるのがHAIの専門です。

 そこで考えたのが、ごみの前でもじもじするロボットです。
機能は至ってシンプルで、ごみ箱を抱えたロボットがごみを見つけたら、その前でもじもじしているように動くのです。
そうすると、多くの人はロボットが可哀想になってその「ゴミを拾ってあげる」のです。
つまり、ロボットと人の関係によって問題は解決できるというのがこの分野のすごいところです。

誰もが完璧なロボットを夢見ていますが、本来はそこまで機能がなくても十分に役に立つことがあるのです。
こう考えるとロボットの性能は大して必要もなくなり、AIの能力もそこまで必要なくなります。
このことによって「ドラえもん」の実現可能性もだいぶ現実味を帯びてきます。

③良かった点「ドラドラ」だけで完璧なコミュニケーションがとれるエージェントへ

ドラえもんは決して完璧なロボットではありません。
アニメをみたことがある人なら知っていることですが、ドラえもんは欠陥品としてのび太のところに来ました。
つまり、璧なロボットではないドラえもんがなぜ人の役に立つのかを考えると、ドラえもんの誕生もそう遠くないように感じることができます。

その時に重要になってくるのがコミュニケーションです。
多くの人は「自然言語」で話せることが必要だと考えますが果たしてそうでしょうか。
アニメの中でミニドラは「ドラドラ」という言葉だけで意思の疎通をします。
あればあくまでミニドラだからでしょ。という人もいますがそれは違います。
「ミニオンズ」も何を言っているかは分かりませんが大人も子供もその言葉を理解できます。

身近なペットも同じことが言えるでしょう。
犬や猫は自然言語を話すわけではありません。
それにも関わらず、「ご飯食べたいの」「散歩行きたいの」など会話をすることができます。

つまりコミュニケーションのスキルというのは多くの人が思っているほど重要ではなく、自然言語ができるかどうかは重要ではないのです。
ある調査では自然言語で話せるからこそ生まれるストレスというのが分かっています。
人間の赤ちゃんや犬や猫は自然言語で会話はできません。

しかし多くの人は可愛いとか癒しというものを受け取ります。
そのことがドラえもんを作る上で重要となってくるのです。

まとめ

自然言語が話せて、「タケコプター」も「どこでもドア」もすぐに出してくれる「ドラえもん」の誕生については大澤さんも認めている通り、現在の技術ではほぼ不可能でしょう。しかし、困ったときに友達でいてくれる、会話楽しむことができる、一緒に成長をしていきたいと思える「ドラえもん」はそう遠くない未来に誕生します。

これはドラえもんに限らずロボットを私たちがどのように見るかによります。
便利な道具としてだけ見れば望みは大きくなり、足りない機能や不足している能力をもっと持ってほしいと思うかもしれません。

しかし、HAIの専門領域によって、「ロボットと人間」がともに社会を豊かにし、共存していく社会が来ればそれは良い変化でしょう。
AIやロボットに職を奪われるという考えをする人の多くが陥っていることは「AIやロボットは道具」と思っているからです。

本来、AIやロボットは人の生活を豊かにするために誕生してきたものであり、それを使いこなし楽しむことが重要です。
自分だったらこういう使い方をしてAIやロボットと共存していく。
そのことが本来はより重要な気がします。
それが大澤さんの伝えたかったことではないでしょうか。

『ドラえもんを本気でつくる』大澤正彦、PHP新書、2020年