書評

宇佐美まこと氏の『入らずの森』を読んでみました。胸に積もるような怖さが堪らない!

宇佐美まこと氏の『入らずの森』を読んでみました。胸に積もるような怖さが堪らない!

今回は宇佐美まこと氏の『入らずの森』についてお話します。
皆様、ホラー小説って好みが分かれるイメージがありませんか?
一口に怖さと言っても、好きな怖さ、嫌いな怖さがあると思います。

例えば、心霊系は好きでもスプラッターは苦手…という感じです。
ご紹介する『入らずの森』は、残酷な怖さというよりは、霊的な怖さを味わうことができる一冊です。

お好みであれば、ぜひ手にとってほしい一冊です。
これから細かく良かった点をお話していきたいと思います。

[人の気持に漬け込んで日常を侵食する「何か」]

よかった箇所①:湿潤で寒々しいその場所で、それははっきりと覚醒する。

冒頭から恐怖の正体を「想像」させられることになります。
いきなり胸にゆっくり重みがかかるような恐怖感を味わうことができると思います。
胸に重みが加わるような感覚になるかもしれませんが、ここで読むのを止めないでいただきたいです。
ぜひ最後まで読んでみてください。

これが長く続くわけではないので、ご安心してくださいね。まだ序盤です。
ホラーに慣れていない人は少し驚くかもしれませんが、挑戦したいと思ったらぜひ、読み進めてみてくださいね。

よかった箇所②:鬱屈とした背景や、過去に傷のある人物に注目。

登場人物の中には、なにか鬱屈としたものを抱えている人物もいます。
そうした気持ちは、本人が乗り越えない限りいつまでも心の隅に根付いてしまいます。
そういったところが非常にリアルで、こうして抱えている「弱さ」を嗅ぎつけて恐怖は侵食しようとしてきます。

登場人物の過去に関する部分や、不満などの心情を描写している部分は非常に濃厚ですので印象に残ると思います。
宇佐美まこと氏は「心の闇を描き出す名手」と評価されています。
それがこういったところで発揮されているので、じっくり注目してみてくださいね。

よかった箇所③:舞台になる田舎には平家の伝説も残っている。

平家といえば、多くの人が知っているとは思いますが、源氏と争い落ちることになってしまいましたよね。
その落ちた平家の落人に関する伝説が残っています。

繁栄を望むも叶わず、命を狙われ逃げる人の気持はどのようなものだと思いますか?
ただ悲しいだけでしょうか?
私としては、やはり相手に対する恨みは芽生えると思います。
人間の思いというのは恐ろしいもので、その思いが強いほど「生霊」なんて話や「怨念」というものまでありますよね。

誰かのせいで自分の命がもし落ちたら…あなたはどんな気持ちになりますか?
きっと昔の人も同じかもしれません。
この作品の舞台にはそうした「強い思い」が残っていると言えるでしょうね。

よかった箇所④: 思いと自然が人を蝕む恐怖を味わえる。

前述で、人間の思いというものは恐ろしいもの、とお話ししました。
後半でそれが濃厚に描かれています。
思わぬ形で人の思いというものは現れ、登場人物に襲いかかります。

個人的にこの展開は本当に発想がお見事だなと感じました。
田舎を舞台にしているからこそできる演出であり、自然が豊かでないと味わえない恐怖と言えると思います。

ネタバレを防ぐために明確には書きませんが、生物に詳しい人はある意味で違った楽しみ方ができるかもしれません。
そういう人も読んでみてくださいね。

よかった箇所⑤: どうあがいても絶望…じゃないんです!

ホラー小説って、解決策のない物だとお思いではありませんか?
この作品は解決策が登場します。

ある人物が田舎に残っている話をヒントに解決策に辿り着きます。
危機が迫っている人物を救うために、田舎の学校に残っている校歌に焦点をあてて、そこから過去に起こったことをヒントに解決策を見出すことができるのです。「気分のわるいままの展開は嫌だ」とお思いの方にはもってこいの展開なのではないでしょうか?

登場人物である吉田杏奈は、鬱屈とした気持ちを抱える金髪の少女なのですが、ここから彼女の心境は変化します。
そういったところも注目すべき点と言えますね。

都会で暮らしてきた杏奈の思春期ならではの気持ちに、共感する人も多いかもしれません。そんな彼女がこれをきっかけに変わり、金髪を暗く染めるのですが、どのように変化したのかは皆様が実際に読んで確かめてみていただきたいと思います。

[まとめ]

今回のポイントをまとめると次のようになります。
①いきなりホラー感を味わえる、背景が細かく描写されている人物に注目、③怖いのはある意味で人間、④環境をちゃんと使って恐怖を演出している、⑤解決する展開が希望の方にはおすすめ。以上ですね。

いかがでしたか?
宇佐美まこと氏の別な作品を読んだ事がある方でも、また作品に触れたことがない方でも、ホラー小説に関心があればぜひ手にとってほしいと思います。
私はこのホラー小説を読んだときに抱いた感想として、日常を侵食するホラーであると同時に、ファンタジーの雰囲気も併せ持っているなと感じました。

現実的な描写ではありながら、展開はファンタジーに近い展開に感じたので、読んだあとずっと怖くなる、といったことはありませんでした。
なので、安心して手に取る方が増えてくださると私も嬉しいです。
ぜひ、探してみてくださいね。