書評

宇佐美まこと氏の『愚者の毒』を読んだ!人間の闇を味わいたい方にはおすすめです。

宇佐美まこと氏の『愚者の毒』を読んだ!人間の闇を味わいたい方にはおすすめです。

 

宇佐美まこと氏の『愚者の毒』を読みました。
第70回日本推理作家協会賞受賞の傑作です。
一言で言うなら「登場人物のみならず、読者にまで容赦ない絶望を与えてくれる」作品です。

読んだあとも忘れることのできない気持ちになることができます。
私も読んでからしばらく経った今でも、覚えているところがとても多いです。

これから読む方もきっと、忘れられない一冊になることは間違いありません。
人間の美しさも醜さも濃厚に詰め込んだ一冊の良いところを、これから詳細をお話いたします。
間の醜さや暗い過去、登場人物へ与えられる絶望が読者を魅了する

①偶然の一致から一瞬の救い

お話はあるお年寄りの女性の回想から始まります。
借金を背負わされて職場を探す葉子は、職場探しの際にひょんなことで石川希美と出会います。
「きみ」と名乗るその女性との出会いで、葉子は家政婦の職を得ることになります。
葉子が連れている喋らない男の子「達也」も徐々に葉子に心を開いているのですが…。

こうして聞くととてもいい方向に向かっているように感じませんか?
でもお話はまだまだここからです。
ここから希美の過去が少しずつ語られていくことにより、読者はどんどん闇に飲まれるような感覚に陥ることと思います。

光からどんどん闇に飲まれるような感覚が癖になる人は必ずいらっしゃると思います。

②人間の影をとことん描写し、登場人物がとことん苦しめられる

作者である宇佐美まこと氏の強みである人間の闇の描写が堪能できます。
表では紳士的であっても、裏ではとんでもなく凶暴で残忍な人間の醜いところを容赦なく描写しています。
登場人物の暗い過去もまた、鮮明に書かれているため、人間的な恐怖を味わえるのではないでしょうか?

文章による描かれ方があまりにも現実味を帯びていているため、そういうホラーがお好みな方にはたまりませんね。
途中で希美の過去が描写されているのですが、そこが、この物語の発端とも言えます。

希美がなぜ整形をしているのか、今の職場で働いているのか。
いろいろ点と点がつながっていくのですが、ここで一度読むことを休憩したくなる人もいるかもしれません。
無理は禁物ですよ、本が嫌いになっちゃいますからね。

③救われたいと望む人物にとことん救いがない

 先程出てきた葉子ですが、あることに巻き込まれて命を落とすことになってしまいます。しかも、本来であれば彼女は命を落とす必要はありませんでした。
葉子はこの頃気になる人もできて、職場ではとても幸せに過ごしていたというのに、どうして救われなかったのでしょう。
残された達也はどうやって生きていけばいいのでしょうか。

実は達也は家事で本当の親を失っています。
葉子まで失った彼は一体どうやって生きていくのでしょう?
達也もまた、何かを抱えて生きていかなければならない人間となってしまいます。

④罪には報いがある

時が経過していく中で、罪を犯した登場人物に対し、また復讐をする登場人物もいます。その犯した罪もまたそうしないと自分を守れなかった場合であればなおさら、復讐されるのも無理はないとしても、読者としてはやり場のない思いになるのではないでしょうか。
誰にも救いなんてないのですから。

⑤ 生き延びることもまた、絶望

罪が重ねられていく中で、生き延びていく人間は恨まれるのもまたおかしくありませんね。
そんな中で生きていくのは一体どんな気分なのでしょう。
読者も一緒にそれを味わうことになります。

しかも偶然、自分の罪を知る人間に出会ってしまったらどんな気持ちになるでしょうか?
自分のやってしまったことは永遠に消えません。
そんな過去を抱えて、犯した罪から来る罪悪感を繰り返し味わいながら、それをひた隠して生きるのは精神的な体力を要します。

いつまでもそうしていられる自信は、皆様にはありますか?
登場人物の中で、最後まで生きているのは一体誰なんでしょうか?
その人はどんな闇を抱えて生きていくことになるのでしょうか?

[まとめ]

紹介をまとめると次のようになりますね。
①救いは一瞬、②人間の醜さがとことん凝縮されている、③救われたい、または救われてほしい人間ほど救われない、④罪には報いが来てしまう、⑤生き延びることも絶望になる、
ということでした。

いつまでも読者の心を牛耳り、ホラー小説のイメージを大きく覆してくれるような作品です
ね。
今回紹介した本は、以上のように人間的な怖さで魅了してくれます。
暗い過去をもった登場人物にも救いはないし、落ち度のない人間も犠牲になってしまいます。
醜さを見せる人間にも報いがあります。

様々な理由で命が落とされてゆく中で、生き残った人間もまた、それを自分の闇として抱えて生きていくことになるのです。
終わりがないところもまた恐ろしさを感じさせる要素の一つですね。
個人的にとても面白かったです。

過去の暗い描写が文字でありながらとても鮮やかで、その場に居合わせているかのような臨場感と、登場人物の立場に立たされ何かを背負わされるような感覚は、ある種で「怖さ」を覚えます。