書評

『大進化どうぶつデスゲーム』を読んでみた感想!生物好きな人にオススメの本!

『大進化どうぶつデスゲーム』を読んでみた感想!生物好きな人にオススメの本!

18人の女子高生が人類を救うために800万年前にタイムスリップして冒険するSF作品です。

平穏な高校生活を送っていた主人公たちに、ある日とつぜん異変が訪れます。
18人の生徒以外の人間が、尻尾のない猿に変わってしまったのです。
混乱する生徒たちの前に現れたのが「シグナ・リア」という名の謎のAI。
シグナ・リアの説明によると、過去のどこかで「ある動物」が異常進化する世界線が生まれ、未来が変わってしまったとのこと。
人類の未来を取り戻すには、過去に遡って「ある動物」の祖先を減らさなければいけないのです。

説明を聞いた女子高生たちは迷いながらも、シグナ・リアの言葉のとおりに過去に旅立つことを決めます。
この作品の魅力は何といっても、著者の該博な科学知識に裏打ちされた奇想と、サブカル・オタク文化が見事に融合していることでしょう。
舞台となる800万年前の北アメリカの生態学的な描写も、古生物好きにはたまりません。
動物や進化に興味がある人にオススメの本です。

よかった箇所①

 全体の形としてはライフル銃のようだ。長い銃身が銃床に支えられており、引き金がある。
だが、その素材は鉄や木ではなかった。
明らかに生き物だ。銃床はむき出しになった白い骨であり、銃身は赤茶けた皮膚が覆っている。
銃床の先からは、肩にかけるためのベルト── ライフルスリングが銃身につながって生えている。
もっとも異様なのが、 銃身の背にびっしりと並んだ球体であった。
やわらかそうな膜で包まれた白い球体で、親指の頭ほどの大きさだ。
本体からイボのように生えており、血管のような細い管が球体を結んでいる。

これは、「ある動物」の祖先と戦うために女子高生に与えられた「どうぶつ鉄砲」の描写です。
どうぶつ鉄砲は、生きているライフル銃であり、圧縮空気の力で弾を撃つのです。
銃身の背にびっしりと並んだ「やわらかそうな膜で包まれた白い球体」に溜まっている空気を利用する仕組みです。

いかがでしょうか。生物だけを使ってライフルを作ってしまう発想はまさにSF。
著者の奇想が光る部分です。
ちなみにライフルだけではなく、クラスター爆弾銃やナイフ、ライターも登場します。

よかった箇所②

大きなエビとクワガタムシとラクダとハチとカタツムリのキメラというのがしっくりくる。
全身は甲殻類や昆虫の持つ殻で覆われている。
頭部には、節くれだった細長い脚が何本 もエビのように生えており、体を支える。
そのなかでも大きな脚が二つ、前方に伸びて いる。(中略)
クワガタムシのハサミのようだ。
ハサミの上に、拳二つ分くらいの大きさの眼球がついており、銀色に光ったそれはギョロギョロあたりを見回している。
腹部 は頭部よりも細くなり、脚は少なくなる。
ラクダのように背にはコブが何個もある。
尾部はハチのように大きく膨らみ、黒いシマシマ模様が描かれている。
脚がないまま、尾部は直接地面に降ろされている。
尾の殻はスカート状になっており、内側にはカタツムリの本体のような白い肉の塊が見える。

こちらは生物だけで作りあげられた戦車です。
この戦車、なかなかの優れもので、自動操縦機能・スニーキング機能・遠隔操縦機能がついています。
さらに脚にはヤモリの遺伝子が使われており、急な斜面もスムーズに登ることができます。
まるで『風の谷のナウシカ』に登場する「王蟲」のようですね。

よかった箇所③

「ヒアエノドンは、もうそろそろ絶滅する『肉歯目』っていうグループのなかで 最後に残った一種だよ。肉歯目は哺乳類のなかで、最初に出てきた肉食専門のグループだ ね。新生代における哺乳類の急速な進化は、二段階あったんだ。新生代初期の恐竜絶滅後の進化と、新生代半ばの寒冷乾燥化に適応した進化。二番目の進化で、現代型の哺乳類が誕生 したんだよ。古いタイプの哺乳類は新しいタイプに駆逐されてほとんどが絶滅したってわけ。いままさに、その交代劇が行われてるね」

この作品の魅力は奇想だけではありません。
舞台となる800万年前の北アメリカの生態学的な描写も古生物マニアをわくわくさせてくれます。

物語の随所で、未来からやってきたAI「シグナ・リア」による解説が挟まれます。
この本に出てくる生物用語は多岐に渡ります。
ざっと挙げると、

プラティベロドン、ゴンフォテリウム、アエピカメルス、シンテトケラス、ヒラコドン、ボロファグス、アルゼンタヴィスー、モロプス、ポタモテリウム、アンヒンガ・グランディス、コリンボイデス・ミヌトゥス、パレオカスター、ネオカタルテス、ノガンモドキ、ヒアエノドン、アエルロドン、ペディオヒエライス、アグリオテリウム、サーベルタイガー……

これを見るだけでも、著者のマニアっぷりが伝わってきます。
「シグナ・リア」によるバスガイドのような解説は読者の知的好奇心を満足させてくれるでしょう。

よかった箇所④

小夜香の横顔を見ていると、にっと笑い返された。
盗み見ているようで、妙な気 恥ずかしさを受ける。
思わず、顔をそむけてしまう。
そうすると、小夜香の手がするすると 伸びてきて、月波の手の甲に重ねられた。
これは、あれだ。エヴァのシンジくんとカヲルくんが風呂場で手をかわすシーンとそっくりじゃないか。

登場するオタクの子が、友人に手を重ねられてどぎまぎするシーンです。
このように、物語のところどころにアニメ好きならば思わずニヤリとしてしまうような描写があります。

ちなみに著者の草野原々氏は、2016年に『最初にして最後のアイドル』で第4回ハヤカワSFコンテスト特別賞を受賞しデビューした新進気鋭のSF作家。
そしてデビュー作『最初にして最後のアイドル』は、なんと某人気アニメの2次創作が元になっているのです。
ところどころアニメ作品への言及やサブカル的なネタが挟まれるのは、こうしたことから納得できますね。

その後も、草野原々氏は、サブカル・オタク文化と、ハードSFを組み合わせた独自の作風で読者を魅了し続けています。
まさにスーパーフラットな時代のフィリップ・K・ディックといえるでしょう。

まとめ

早川書房のSFのなかでも特にキャラ小説要素が強いので、人によって好き嫌いが分かれる作品かもしれません。

それでも私がこの作品にSFとしての魅力を感じるのは、舞台設定や登場するギミックに大きな「遊び心」と「センス・オブ・ワンダー」を感じるからです。

お気づきかもしれませんが、登場するギミックのすべてが「もしも生きものだけを使ってこんなものを造るとしたらどうなるだろうか」という発想の元にデザインされているのです。ドゥーガル・ディクソンの『アフターマン』や『フューチャー・イズ・ワイルド』にも通ずる感性です。
生態学や進化生物学が好きな人にオススメのSF作品だと言えます。