書評

太宰治『葉桜と魔笛』を読んでみた感想!文豪の作品を読んでみたいという

太宰治『葉桜と魔笛』を読んでみた感想!文豪の作品を読んでみたいという方にオススメの本!

今回ご紹介するのは太宰治『葉桜と魔笛』という作品です。
文庫本『新樹の物語』に掲載されています。

文豪の作品を読んでみたいけれど、難しい文体や長編は苦手…という方におすすめの本です。
私は1度『人間失格』を途中であきらめてしまったことがあったので、本作を読むのも少し不安だったのですが、なんで真面目に太宰作品を読んでこなかったんだと後悔したくらい心を刺すものがありました。

姉妹のお互いを思いやる心、彼女たちの前で起こる不思議な出来事に注目してみてください。

【手紙の差出人M・T】

冒頭部、老婦人の「私」が35年前のことを語るところから物語が始まります。

この作品の中心人物は、当時20歳の「私」と、腎臓結核を患い余命宣告を受けている妹の2人です。
季節は新緑の5月なかば。

近い日に死を迎える妹を思うと「私」辛く苦しい気持ちを覚えます。

ある日、妹は自分の枕もとに手紙が置いてあることに気づき、いつ来たのかを「私」に問いかけました。
「私」は、ついさっきだと答えるのですが、妹は手紙の内容がおかしいのだと言います。

なんと妹の知らない人からのものだったのです。

しかし「私」はそれが嘘だということを知っていました。

時は少しさかのぼります。
「私」が妹のたんすを整理していた時の事です。

私が、その五、六日まえ、妹の箪笥をそっと整理して、その折に、ひとつの引き出しの奥底に、一束の手紙が、緑のリボンできっちり結ばれて隠されて在るのを発見いたし、いけないことでしょうけれども、リボンをほどいて、見てしまったのでございます。

「私」はその手紙をすべて読み、それらが「M・T」という男から差し出されたものだと知るのでした。
手紙によればM・Tは貧しい歌人のようすでした。

何度も手紙をやり取りしているものの、最後には、妹を捨てお互いを忘れてしまおうという内容で終っていました。
それきり手紙は来ていないようで、「私」は妹を可哀そうに思いました。
実は、妹の枕もとに置いてあった手紙は、「私」がM・Tになりかわって書いた手紙だったのです。

妹の枕もとに置かれた手紙には、「私」がM・Tになりかわろうと努力している痕跡がいくつも見られます。
拙い和歌を記し、「きっと美しい結婚できます」という前向きな終わり。
M・Tが憎くて仕方ないはずなのに、「私」は律義に和歌も考え手紙を執筆しました。
妹への、「死に際は幸せでいてほしい」という気持ちがひしひしと伝わってくる内容でした。

しかし、驚くことに妹は、枕もとの手紙が「私」によるものだと分かっていました。
なぜなら、緑のリボンで束ねていた手紙はすべて妹によって書かれたものだったからです。

【明かされる妹の心の内】

姉さん、あたしは今までいちども、恋人どころか、よその男のかたと話してみたこともなかった。
姉さんだって、そうなのね。
姉さん、あたしたち間違っていた。
お利巧すぎた。
ああ、死ぬなんて、いやだ。
あたしの手が、指先が、髪が、可哀そう。
死ぬなんて、いやだ。いやだ。

妹は寂しいゆえに自ら手紙を書いて自分あてにポストに入れていたのです。
自分の先がないことへの悲しみ、多くのことを経験できなかった後悔が痛いほどに伝わってくる台詞部分です。

しかし、なぜ見つかってもおかしくない「緑」のリボンで手紙は束ねられていたのでしょう?

ここには少し謎があるように感じました。

【聞こえてくる口笛】

「私」はM・Tになりきった手紙に、夜の6時に口笛を吹いてあげるという旨を記していました。
もちろんその口笛も自分で演じようとしていたのです。

妹の苦しみを見かねて、私が、これからの毎日、M・Tの筆跡を真似て、妹の死ぬる日まで、手紙を書き、下手な和歌を、苦心してつくり、それから晩の六時には、こっそり塀の外へ出て、口笛吹こうと思っていたのです。

「私」が妹をいかに強く愛しく思っているかが分かる一文です。
しかし妹に自演が明らかになってしまいます。
妹がずっと自分あてに手紙を書いていたことを知った「私」は、悲しみから泣き出す妹を抱き寄せます。

私たち、言い知れぬ恐怖に、強く強く抱き合ったまま、身じろぎもせず、そのお庭の葉桜の奥から聞こえて来る不思議なマアチに耳をすまして居りました。

なんと二人が抱き合う中、「私」の手紙通り晩の6時に口笛が聴こえてきたのです。
でも、「私」が吹いているわけではありません。

一体誰によるものだったのでしょうか。

謎は明かされず、ただただ2人はその音に耳をすまし、それから3日後妹は息を引き取りました。

「私」の妹を思う心が痛いほどに感じられ、最後の口笛のシーンはとても幻想的です。

しかし、この作品はいくつか謎が残っています。
口笛が鳴りましたが、タイトルの「魔笛」に触れた箇所はありません。
口笛を魔笛と形容するのはあまりしっくりこないのですが、どのような意味がこめられているのでしょうか。

また、M・Tというイニシャルも気になります。
誰かにちなんだものであるのかなと私は首を傾げました。

このように考察が深まっていく作品でもあるでしょう。

【まとめ】

今回は太宰治『葉桜と魔笛』を紹介しました。

妹を思いやる姉の姿、幻想的なシーンがたくみに描かれています。
謎が残るので、何度も読み返したくなりますよ。

タイトルについて考察してみるのも面白いかもしれません。
私はやはり、魔笛が気になるのでもっと読み込みたいなと思っています。

「太宰治の作品であまり長くないものを読みたい!」
「そこまで難しくない文豪の作品にチャレンジしたい…」

という方はぜひ読んでみてくださいね。