『こいしいたべもの』を読んでみた感想!食べるのが好きな方にオススメの本!
みなさん、食べてますか?
おいしいものを食べると、ついつい顔がほころんでしまいますよね。
私はオムライスが好きなのですが、親がお弁当に入れてくれて嬉しかった思い出があります。
だから、オムライスを目にするとどこか懐かしいような気持ちになります。
みなさんにも食べものにまつわる思い出があることでしょう。
今回ご紹介するのは、森下典子先生の『こいしいたべもの』というエッセイ集です。
カラーイラスト付きなので見るだけで楽しめます。
食べることが好きな方にオススメの一冊です。
【22品のイラスト付きエッセイ】
この本の魅力はカラーイラストがエッセイとともに載せられているところです。
なんと森下先生がイラストも担当しているんですよ。
また、22品分あるので、目次を見て気になったものを先に読んでみることもできます。
鳩サブレやペヤング焼きそば、ホットケーキなど私たちにとって馴染み深い食べものが題材になっているのも嬉しいですね。
今回は「桜餅」「沢辺の蛍」「コロッケパン」の3品にまつわる話について紹介していきます。
【食べたときのリアルな描写】
この本の楽しいところは、自分が食べているような気分になれる点です。
〇〇を食べた、という事実だけでなく、食べたときの舌触り、匂い、見た目などが丁寧に描かれています。
桜餅についての描写を紹介しますね。
銘々皿に桜餅を載せ、手で持って葉っぱごと食べた。
口元へ運ぶ途中からもう、ぷう~んと塩漬けの葉の香りがする。
口に入れると、ブチっと葉が破れ、薄皮の弾力の中から、よく晒した餡子の甘さが現れる。
葉っぱが破れるブチブチという食感に、上品な餡の甘さと、塩気のきいた葉の香りが混ざり合う。
食べる前の「ぷう~ん」という、匂いについての描写。
次に、口に入れたときの食感。
その後に広がる味…。
食べ始めてから食べ終わりまで、視覚、嗅覚、味覚など様々な観点から描かれています。
葉っぱが破れる時のブチブチという音がほんとうにぴったりです。
私も桜餅を食べたとき、こんな感じだったな…久々に食べたいな…と思わず喉が鳴ってしまいます。
森下先生は桜餅を食べながら、桜の咲く小学校入学の頃を思い出します。
桜餅の匂いをランドセルの革の匂いにたとえる鋭さには驚きです。
リアルで丁寧な描写と、森下先生ならではの鋭いたとえは、この本の注目すべきポイントですね。
【自分の知らない食べものに出会える】
おなじみの食べものだけでなく、今まで知らなかったものにも出会えるのが楽しいです。
『沢辺の蛍』は「末富」というお店に売っている和菓子。
このお菓子について紹介したお話があります。
森下先生は9歳の夏休み、ひとりで岩手の祖父母の家に行きました。
家の周りは田んぼが広がる大自然でした。
いとこたちと一緒に虫取りをした思い出がつづられます。
ある夜に伯父が蛍を見に行こうと提案し、いとこたちみんなで川の近くへ向かいました。
足元が青白く光っているのに気付いた。
まるで天の川のように見えた。
草の葉にとまっているもの、すーっと糸引くように過るもの。
音もなく光っては消え、消えては光りながら、ふわり、ふわり飛んでいる。
私は蛍を見たことがないのですが、この箇所を読んで幻想的な空間がすぐさま思い浮かびました。
森下先生はこの思い出を『沢辺の蛍』という和菓子の中に見出しています。
それはとろりと光って、蒸し暑い夜の空気のようだった。
その中では、何もかもが、湿気でゆらめき、霞んで見える。
葛の向こうにぼんやり見える小豆の粒は蛍。緑色の餡は、水辺の草か、あるいは蛍の放つ光だろうか。
『沢辺の蛍』は、緑色のあんと小豆の粒を葛でくるんだ上生菓子です。
この特徴を昔の思い出になぞらえているところを見ると、私も本物を見て食べてみたいと思ってしまいます。
自分が出会ったことのない食べものに関しても、森下先生の思い出と丁寧な描写によって、「食べてみたい」と感じられる作品です。
【「それあるある!」が止まらない】
桜餅、沢辺の蛍とくると、どこかお高いような印象を受けるかもしれませんが、実はそれだけではないのです。
私たちが食べものを食す上での「それあるある!」という感覚にも寄り添っている作品なんですね。
森下先生はコロッケパンにまつわる話を描いています。
小学生のとき母にお弁当を作ってもらっていた森下先生ですが、前の席の熊田君が食べているコロッケパンに魅入ってしまいます。
熊田君の母は忙しいため、もらったお金でパンを買っているのです。
母に申し訳ないと思いながらも、森下先生は次のように思いました。
私は好きなパンを買って食べてみたかった。
熊田君はいつも自分が食べたいパンを買ってくる。
その自由が羨ましかった。
欲望とうしろめたさが交わるこの箇所に思わず微笑んでしまいます。
それぞれの食べもののイラスト近くに言葉が添えられているのですが、コロッケパンについては特に「それあるある!」と感じました。
コロッケがべちゃべちゃするほど、ソースのしみたのが好きだった。
あるある!
さくさくコロッケもいいのですが、ソースがたっぷりかかってパンにもしみるくらいがおいしいですよね。
普段感じている「あるある」を言葉にしてくれている点も楽しい部分ですね。
【まとめ】
今回は森下典子『こいしいたべもの』をご紹介しました。
食べものの丁寧な描写とクスリと笑える思い出が絶妙にマッチしたエッセイ集です。
自分が好きな食べものを探して読んでみるのも楽しいですよ。
また、イラストもところどころにあって読んでいて飽きません。
食べものにまつわる話を読んでみたい!
読みやすいエッセイ集ないかな?
という方にぜひ読んでほしい一冊です。