書評

江戸川乱歩『人間椅子』を読んでみた感想!江戸川乱歩の少し怖い作品を読んでみたい人にオススメの本!

今回ご紹介する作品は、江戸川乱歩作『人間椅子』です。
江戸川乱歩というと推理小説のイメージがありますが、この作品は推理に特化したものではないんです。

ただ、ぞわぞわと身震いしつつも読み進めてしまう展開は、さすが江戸川乱歩と言わずにはいられません。
「江戸川乱歩の作品読んでみたいな…」
「少し怖いものを読んでみたい」
という方は、この『人間椅子』をぜひ読んでみてくださいね。
この作品は『江戸川乱歩全集 第一巻』にて読めます。

【奇妙な原稿を読み進めていく形式】

『人間椅子』は、女流作家の「佳子」のもとに手紙が送られてくるところから始まります。
手紙をいつも通り読むものの、その中に1つだけ異質なものが。

それは思った通り、原稿用紙を綴じたものであった。
が、どうしたことか、表題も署名もなく、突然「奥様」という、呼びかけの言葉で始まっているのだった。

この不思議な手紙を読み始める佳子。
この作品の大部分が、この手紙の内容で占められています。
誰からのものか分からない、おまけに表題もなく、「奥様」と少しなれなれしい始まり。
この時点で胸がざわつきますね。
「佳子先生」と記すならファンレターかな?と思いますが、「奥様」と書くのは違和感があります。

しかし、もっと怖いのはその手紙の内容だったのです。

読み進めて分かるのが、差出人は椅子職人をしている男だということ。
また、醜い容姿かつ、経済的に厳しい状況であるとも記されています。

男は派手な生活を夢見て、日々妄想をしていました。
私も「偉い人って毎日ステーキ食べてるのかな…」とか「裕福な人の家はきらきらしてるのかな…」とたまに考えるので、男に共感を覚えかけたのですが、「妄想」で終わらないところが男の怖いところでした。

男の椅子作りの才能は非常に素晴らしいものだったので、お客さんには地位の高い人や、セレブな人もいました。
男はのちに座るであろう人々や部屋の豪華さを妄想して、自分の作った椅子に座ります。
私もここまでならやりそう。
自分が作った椅子が、有名な方のもとにいくのを想像したら絶対興奮します。

しかし、怖いのはここから。

【椅子職人、椅子になる】

私はシャツ一枚になると、底に仕掛けた出入口の蓋を開けて、椅子の中へ、すっぽりと、もぐりこみました。

男はついに椅子になりました。
何を言っているのかと首を傾げた方もいるでしょう。
私も自分で何を言っているのか分かりません。
男は妄想を止められないゆえ、「椅子に潜んでお客様のもとへ行ってしまおう!」計画を実行したんです。
運ばれる最中に、「馬鹿みたいに重いぞ」と怒鳴られるものの、なんとこの計画は成功します。

私の、この奇妙な行いの第一の目的は、人のいない時を見すまして。
椅子の中から抜け出し、ホテルの中をうろつき廻って、盗みを働くことでありました。

男は盗みもはたらきます。
たしかに誰も椅子の中に人がいるなんて想像もしないですよね。

私は最初、男は妄想のみにすがる臆病な男だと思っていたんです。
でも、話が進むにつれ男が大胆になっていく展開は注目すべきところです。
また、妄想は大きくなると人をこうも変えるのかと鳥肌が立ちました。

男が行き着いた場所はホテルだったため、様々な人物が椅子に座ります。
この作品では、自分がもし男の入っている椅子に座ったら…と想像せずにはいられない、生々しい表現がちりばめられているんです。

彼女は何の不安もなく、全身の重みを私の上に委ねて、見る人のない気安さに、勝手気儘な姿体を致して居ります。
私は椅子の中で、彼女を抱きしめる真似をすることも出来ます。
皮のうしろから、その豊な首筋に接吻することも出来ます。

上記の引用は、椅子に入った男の上に若い異国の乙女が座ったシーンの一部です。
男の欲望が生々しく描かれ、「椅子に座る」という単純な行為を恐ろしく感じさせます。

しかし、自分の知り得ない感覚や、男の生々しい表現に惹き込まれてしまうのも確かです。

【男が次に行き着いた場所は】

男の入った椅子は、その後オークションにかけられます。
買い手は立派な邸の持ち主で、書斎へと置かれました。
椅子職人の男は、その書斎をよく使用している夫人と椅子越しに出会ったのです。
もちろん夫人には気づかれておらず、男だけが一方的に知っている、という状態。

男は、その夫人が「美しい肉体の持ち主」であるということを手紙に記しています。
また、彼女に恋をしていること、自分の恋人のように思っていることも書かれていました。

ここで衝撃の事実が明かされます。

奥様、あなたは、無論、とっくに御悟りでございましょう。
その私の恋人と申しますのは、余りの失礼をお許し下さいませ。
実は、あなたなのでございます。

なんと男がホテルの次に行き着いたのは佳子の家で、
恋人とは「あなた」…つまり佳子だということが明らかになるのです。

「椅子に座る」というのは日常生活で何気なくしている行為ですよね。
私たちの生活に染み付いているこの「何気ない行為」が一気に恐ろしくなる展開でした。

実はこの作品、ここで終わりではなく、手紙を読み終わった佳子のもとに新たな2通目がきて終わりを迎えます。
その手紙には、今までの話はすべて「創作」であったことが記されていました。

ただ、一通目の男の手紙を本当ととるか、創作ととるかは謎が残ります。
手紙を読みながら、佳子は奇妙さを覚えているので、内容に思い当たるふしがあったともとれるのです。
そのため、「本当」だという線を捨てきることはできないと考えられるんですよね。

また、2通目の手紙を差し出した女中の最初の呼びかけが「奥様、」であることも、1通目の手紙と関わりがあるようで引っかかりますね。

私は本当だと考察しているのですが、みなさんはいかがでしょう?

【まとめ】

今回は江戸川乱歩の『人間椅子』をご紹介しました。
ほとんどが男による手紙が占めているという形式になっています。

ぞわぞわしますが、怪物や幽霊はでてきません。
日常に潜む恐ろしさや人の怖さを巧みに描いていて、最後までハラハラしながら読める作品です。

推理小説ではありませんが、最後のシーンの考察は推理が滾りそうですね。

文豪のちょっと怖い話が読みたい!という方におすすめの作品です。
ぜひ読んでみてくださいね。